狼鬼
□接触
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「けっ」
長身で体格がいいのに意外と色白の吉継は面白くないらしく、小さく悪態をついた。
「オレ、お前らのこと好きだよ。裏ないから」
「お前、よくそういう恥ずかしいことを平均で言う・・・・・・痛だだだだ、耳引っ張るな」
「とにかく、午後からは授業に出てもらうからね」
静香に耳を引っ張られ、元親と吉継は教室へと強制連行された。
「はははは、遅くまで付き合わせてわるかったな。気をつけて帰れよ」
だったら最初から引き留めないでほしかった、と元親はため息をついた。
担任の小林先生は、生物部の顧問をしている。部活に入ってないという理由で、カエルの水槽洗いを手伝わされたのだ。
遅くまで練習している野球部も、今日は先に帰ってしまっている。
帰り道、あの林道で足がすくんだ。夜の暗闇の恐怖と何かが木の影に潜んでいるのではないか――。
心臓がドクドクと、早鐘を打つ。
闇の中で、微かに何かが動いた。野犬か、と思い元親は身構えたが、それは小柄な人影だった。
「・・・・・・子供?」
その人影は、さらに林の奥へと向かおうとしている。
この場は、無視してでも立ち去るべきだ。
直感的に、体がそう警告している。後を追ってはいけない。
それでも、元親は無視出来なかった。
「そっちは危ない!」
必死に後を追う。
その人影は足を止め、鋭い牙を月光に光らせる。暗闇に金色の瞳が不気味に輝く。
「大丈夫だよ――」
銀の長い髪を風になびかせ、それは後ろを向いた。口元が裂け、銀色の狼へと姿を変える。
「我は、我以上の恐怖をしらぬゆえ――」
狼かと思ったが、両耳の間に鬼の角のようなものがあった。
この生き物は一体なんなんだろうか。
しかし、今は逃げた方いい。この生き物が危険だということは分かる。
「・・・・・・え」
元親は後方に下がろ うとしたが、気がついた時には遅かった。その生き物は、巨大な顎で元親の頭から腹部まで捕らえていた。
「グルルルルル」
それは肉食の獣が獲物を狩るように、一瞬だった。
目の前が鮮血に染まる。
元親の意識は、その場で途切れた。