狼鬼

□狩り
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元親が、目覚めて最初に見たのは白い天井だった。地獄というのはもっと暗くてじめじめしているんだろうな、と思っていたが意外と普通だな、と思いながらベッドに横になっていた。


「あら、目が覚めた?」

どこかで会った気がする眼鏡美女の胸が、重力で上下に揺れる。地獄って、結構サービスのよい場所じゃないか、とか馬鹿なことを考えていた元親は、ようやく意識がはっきりしてきた。


「・・・・・オレ、生きてる?」


「とりあえず、私には生きているように見えるわよ、最上元親くん。どこか痛むところはない?」


「今の所は・・・・・・ない。体が、俺のようなそうじゃないような。妙な感じがするけど」

そんなことより、何で名前を知っているのだろうか。ついでに、この人は一体何者なんた?


「貴方の鞄、道に落ちていたからこちらで拾っておいたわ。その時に学生証を見せてもらったの」


自己紹介がまだだったわね、と優しく微笑む。


「私はカンパニーの社長秘書、藤井鶴子です」


疑問に答えてくれた鶴子を見て、さすが秘書だな、と元親は納得していた。
「ガキは起きたか?」
部屋の自動ドアが開くと同時、鋼のように重く冷たい声が響いた。


「お疲れ様です、鳴海社長。いいタイミングですよ」


「・・・・・・・ふん」


声の主は、元親が怖いと感じた銀髪の青年だった。しかし、今は不思議なことに近い存在に感じた。

「元親くん、こちらがカンパニーの社長、鳴海三成さん」


「・・・・はぁ」


「藤井くん、こんなガキに丁寧に名乗る必要はないだろう」


「顔を青くして、ラボに運んだのは社長だったかと存じますが」

「そ、それは死なれては困るからだ」


三成と鶴子は、何やら小声で話しているようだが、元親の耳には届かなかった。

(今、社長って言ったよな。どうりで偉そうな人だ・・・・・・)

白衣を来ていても、王様のように見えた自分の勘は間違っていなかったようだ。
三成は、元親の顔見るなり眉を寄せた。

「ところで、最近の高校生は馬鹿なのか?事件現場に一人で近づくとは」


野犬に襲われても文句は言えないだろう、と三成は呆れ顔。


「あれは、野犬とか狼とかそういんじゃない・・・・・・もっと違う」
心がざわつく。あの夜のことは思いだそうとすると、頭が痛む。
元親は、ベッドの上に横になったまま額を押さえた。

「・・・・・・今の姿は、その代償だ。目玉かっぽじって自分と向き合え」


「・・・・・・え?」


「社長、目玉かっぽじっては見えないと思います」


そういえば、起きてから自分の顔を見ていない。元親は、ゆっくりと上半身を起こし、窓ガラスに自分の姿を映した。


銀髪に金色の瞳、一瞬、別人が映っているのかと思ったが、あきらかに元親自身だった。


人間、ショックを受けたからと言って一晩で白髪と金色の目になるだろうか。


・・・・・・いや、はっきりいってある分けがない。


「あばばばば・・・・・」


「お、落ち着いて元親くん。ほら、深呼吸」

鶴子に背中をさすってもらいながら、元親は深呼吸を繰り返した。


「動けるようになったのなら、今日は家に帰って休め。ここは、私のラボであって病院ではない」


「・・・・・・社長、お忘れになられたのですか?」


鶴子が三成に小声で耳打ちをする。


「あー、そうだったな。あまりにも愉快すぎて、忘れていた」


何かを思い出した三成は、白衣のポケットからマンションの鍵を取り出した。


それを投げて、元親に渡す。
「カンパニーの社宅だが、学生には豪華すぎるくらいだろ。藤井くん、案内してやれ」


「了解しました」

鶴子が頭を下げる。

「あの、どういうことですか?」

状況が理解出来ない元親は、瞳を泳がせた。


「今まで、ずいぶんと愉快な奴らと暮らしていたものだな。貴様の叔父と叔母は、金で簡単に動いてくれた」


三成は意地の悪い笑みを浮かべ、元親の耳元で囁いた。


「・・・・・いくらで貴様を私に売ったか聞きたいか?」


この感覚は、悪魔が闇へと引きずり込むような感覚だろう。
あの二人には期待はしていなかった。それでも今は気分が悪い。


「聞きたくない!」


元親は声を荒げた。

「待って、元親くん」

後を追おうとした鶴子を「放っておけ」と、三成が止める。


「ですが、あの不安定な状態で一人では危険です」


「アレは、完全に人から外れた異質な存在だ。外に出てそれを実感するのも面白い」

「社長は、性格が悪いですね。どうして、狼鬼の話をしなかったのですか?」


「せめてもの私の優しさ」


窓ガラス越しに見える元親の背中に、三成は不敵な笑みを向けた。

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