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□安定が闇堕ちするはなし。
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普段と変わりない、戦中といえどもどこか穏やかな空気の流れる本丸
俺はいつも通りに文机に座り上の方々へと報告するための書類を書き上げている時だった
ドタドタと騒がしい音が廊下から響いてくる
「主!!安定が!!」
清光の焦った、叫び声にも似たような声に呼ばれ、つい手にしていた筆をポロリ、と落とした
『清光?どうした、なにかあったのか?』
「主…安定が…あいつ、あいつ…!!」
『清光、落ち着け、』
明らかに混乱している清光をみて、ただならぬ雰囲気をかんじとる
「っ…とにかく来て!!」
袖を引かれほとんど引きずられるような速さでどこかへと連れ出された
そこは本丸にある一室だった。
この部屋をあてがわれているのは、ここにいる清光と…安定。
他の刀剣達も騒ぎを聞きつけたのか既にみな勢ぞろいしており、物々しい空気が漂っている
俺が来たことに気づいた奴らが廊下の端へ除けたことで部屋の中の状況があらわになった
…そこにあったのはもう最近では見慣れてきたような気もするそれ。
本来はここにあるはずのない、普段は俺達が敵対するやつらの携える鈍い紫色の光
『…やす…さ、だ?』
ああ、もう、手遅れだ
そんなこと思うべきではないとわかっているのに、なぜかそう確信してしまった。
俺の中の審神者としての力が、何かを感じとっているのかもしれない
一歩、一歩と安定に近づく俺を引き止めようと光忠や薬研が近づいてくる
「主、それ以上は…」
『…いい。大丈夫だから』
何が大丈夫なのか、自分でも全然わからなかった。
だが、今はこうするべきなのだと俺の本能が告げていた。
安定の前に着いた俺は膝を床につき視線を合わせる
まだこの状態になってからほとんど時間が経っていないのだろう、変化がみられるのは片目や肩などのごく一部にとどまっている
俺は何かを恨むような、それでいて今にも泣きだしそうな顔をした安定の頭を抱き寄せた
『やっぱ軟弱な俺じゃ、お前の新しい主にはなれなかったか…?』
俺の言葉になすがまま抱きしめられていた安定はびくりと肩を震わせる
「ごめん…ごめんなさい、主…」
ぶすり、
緩やかな衝撃とともに腹から痺れるような熱が広がる
其の後にじわりと温かいものが着物に滲んで行く感覚。
「「「主…っ!!」」」
周りにいたやつらも一瞬は驚きに固まったもののすぐさま俺を安定から離そうと動き出した
誰の手だろうか、強い力で肩を引かれ安定との間がどんどん広がって行くのを何をするともなく眺める
『…こちらこそ、ごめんな、安定。』
…俺はお前のこと、支えてやれなかった。
相手に聞こえてるのかもわからないような声でそう呟いた俺は、そのままふつりと意識を手放した。