長い物語
□満月
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満月は嫌いだ。
月明かりが影を大きく浮かび上がらせ、任務の士気をさげる。
自分の髪が嫌いだ。
闇に紛れるべき忍には、邪魔な産物でしかない。
光に当たれば目立つ金髪…。
満月に照らされた美しい容姿は、面の下で苦々しく表情を歪ませる。
「チッ!!」
舌打ちしたやり場のない感情。
満月の夜はいつも下らない感情に振り回される。
木々の間をすり抜け、しなる枝を軽く蹴る。
枝に吸い付くような手足の動きは俊敏で軽やかだ。
やがて森を抜け、国境付近に差し掛かった。
月明かりに照らし出された一つの黒い影。
里の者か忍かも分からない姿。
全身を黒いマントで覆い隠し性別は定かではない。
目標を捕捉!!…追尾開始。
黒いマントの影はが風に大きくなびく。
追い立てられるように速度をあげる。
一心不乱に何を急ぐ?
オレに気づいた訳じゃないよな…。
もう少し距離をとろう。
迷いが生じた瞬間。
───目標の動きが止まる。
木の幹に背をあずけ。
息を殺し一切の気配を断つ。
静寂と満月の明かりだけが二つの影を写し出していた。