記念日

□蝶
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羞恥心を拭い去るように、互いの装甲を外し、黒装束を脱ぎ捨てる。

満月に照らし出された精巧な筋肉が、熱を持て余して今か今かと期待にうち震えていた。

散らばった装束の上に溺れるように、身を沈める。

草の青々しさが鼻を掠めるように風と吹き抜けていく。

この逞しい胸がいつも受けとめ、この傷だらけの背中が全てから庇うのだ。

愛しそうに肌を愛撫したのは、うっとりと酔いしれたナルトの方だった。

「カカシ先生…」

この男が過ごしてきた幾多の闘いの歴史が、傷の一つ一つに刻まれている。

銀髪が輝いて満月を覆い隠すように、ナルトの顔を掠めた。

「先生…?」

カカシはただ抱き締めるしかなかった。

ナルトの労るような愛撫が魂に刻み込まれた傷まで、癒してくれる。

甘く優しい恥ずかしさにも似たこの感情は何だろう。

ナルトと幾度肌を重ねても抱かなかったこの感情。

「カカシ先生?」

心配そうなナルトの声に応えるように腕の力を強めた。

「ナルト、俺にも分からない。この感情が何なのか」「何か、カカシ先生らしくねぇーってばよ?」
「らしく…そうかもな」

裸で抱き合ったまま何もしないなんて、確かに、俺らしくないな…。

カカシはクスッと鼻で笑うと、両腕からナルトを開放するとゆっくりと身を起こした。

「ナルトのご期待に添えましょう」

艶やかな笑みを浮かべるとナルトの片腕を掴み、恭しく指先に口付けた。

そして、自分の一番醜い生き様を刻んだ、左に走る古傷をナルトの掌で覆った。

「先生のこの傷、俺、好きだってばよ」

ナルトは昔からこの傷に向かって、甘く囁くのだ。

「先生そのものだから、だから、愛してるってば」

潤んだ青い瞳が月明かりを反射してキラキラと輝くようだった。

「ナルト、俺も…」

この傷に誓おう。

お前が愛するように、俺もこの傷を愛そう。

「愛しているよ」

カカシは二人の掌を傷に重ねたまま、誓いの口付けを交わした。

掌から伝わる熱が左眼から溢れ出した涙を優しく受けとめた。



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