短編集(魔法学校)

□初めまして、こんにちは。
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こんにちは、初めまして。






暖炉がある居間の方から騒がしく駆けてくる軽い足音。
勢い良くドアが開いて、同じくらいに勢い良く娘が飛び込んできた。

「どうしたんだ?」

書斎のソファで一人読んでいたマグル界の小説を閉じて顔を上げれば、空いたその手を引っ張ってくる。

「パパ、早く来てっ!」

「何をそんなに急いでいるんだい?」

「いいから、早くっ!」

「?」

急かすばかりで理由を言わない娘に苦笑いが漏れてしまう。
引かれて向かう先は、暖炉がある居間だ。
季節柄、火は起こされていないが板を張って封じることはない。
娘に次いで居間に入ると、目の前を走り回る鮮やかな室内花火。
その向こうには鮮やかな赤髪と、癖のある黒髪。
妻と、息子二人。
僕を連れてきた娘と僕で家族全員が揃う。

「お父さん、おめでとうっ」

「おめでとう、あなた」

「パパ、おめでとー!」

「おめでと」

「……え…?」

僕はおめでとうと、祝われるようなことをしただろうか。
特にこれと言って身に覚えはない。
呆気に取られて見つめていればそんな僕を見て長男が笑った。

「父さん、自分の誕生日忘れてんじゃね?」

「パパ、今日は七月三十一日だよ?
パパの誕生日だよね?ねっ?」

長男と末っ子長女のフォローでようやく思い出す、今日と言う日付。

「…そうか……僕の、誕生日だったっけ」

ふと目を走らせる壁に貼ってあるマグルのカレンダーを良く見ればすっかり忘れ去っていた自分の誕生日で。

「プレゼント、貰って来たんだ。
お父さん…きっと、気に入ると思う」

「……貰ってきた?
…あー…買って来た、じゃなくて?」

次男の言葉に首を傾げていれば今度は妻が隣に寄ってきて、渡されたのは一本のロープ。

「はい、これ引っ張って」

「あ、あぁ………?」

言われるまま引っ張ると重みで突っ張るロープ、その先は長男と並ぶ高さの円柱にかけられた布に繋がっていて。
さらに引けば布が落ち、その中に隠れていた物が露になった。

「………これ、は…」

十数年前に永遠に失ってしまった最高の友。
その友に良く似た美しいシロフクロウが、かつての友と同じようにその金色の双眸で僕を見つめていた。
誘われるように歩み寄って、フクロウを覆う金網に手を伸ばす。
人に慣れているのか、警戒しているのか…それとも、怯えているのか。
止まり木から動かない。
ただ静かに見据える視線が、あまりにも彼と似ていて。
目頭が熱くなる。
視界が揺れて。

「ヘドウィグの子供なんですって。
学校のフクロウとつがいになってたみたいでね…マクゴナガル校長に頼んで譲ってもらったの」

堪えていた涙が頬を伝い落ちた。
そんな僕にギョッとしたのは子供達三人で、妻は僕の背中を撫でてくれる。

「ありがとう…。
…ははっ、ヘドウィグも隅に置けないヤツだったわけだね……あまりにも似てるから、ヘドウィグだと思ったよ」

眼鏡を外して腕で目を拭う。
目頭は熱いを通り越して痛みを訴え鼻水も緩んできた。
ティッシュ欲しいな。

「ハリー…?」

久々に聞く妻に呼ばれる名前に顔を上げて、笑って見せる。
うまく笑えているかちょっと不安だけど。
そして、もう一度フクロウを見る。
よく見れば胸の辺りの模様が友とは全然違うし、嘴の色もちょっと違う。
ヘドウィグじゃない。

「こんにちは、初めまして。
……僕の友達になってくれるかな?」

笑って言う。
籠の中の梟は、一声、鳴いて答えた。
ヘドウィグとは似ても似つかない低い声に、笑いが盛れた。





こんにちは、初めまして。






(そう言えば…この子、名前は?)
(こいつは学校のフクロウだったんだぜ?
あるわけねぇって)
(真っ白だから、スノーホワイトはどう?)
(この子は雄だから…白雪姫は、ね…?)
(ぶぅ…)
(…もう、ヘドウィグU世でいんじゃね?)
(((却下!!)))
(え、あ…僕もそれを考えてたんだけど…)
(((却下!!)))
(校長に交渉したの俺なのにっ!)
(…これ僕へのプレゼント、なんだよね?)



END.

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