蒼海の王に花束を。
□観察2日目
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3 被虐
銀嵐side
特にやる気も無くて壁際で座っていたところに寄ってきた、数人の女子。
仲の良いグループのようで、慣れない質問攻めを受ける形になったけれど、顔に浮かぶ笑顔がとても不自然だった。
そして、今現在。
その内の一人に右腕…肉離れした箇所を思いっきり掴まれて引っ張られて来たここは体育館と体育館の間のジメッとした陰になっている場所。
この展開は…所謂、アレか。
「何様のつもりよっ!!」
拳が空腹の鳩尾に入り込んだ。
女子から腹にパンチを食らうとは思わなかったなぁ。
そんなに強くはないけれど、空腹には効果があるようでせり上がってくる胃酸を飲み込む。
チリチリする喉を気にしてる暇はなくて、別の角度からまた拳が飛んでくる。
「あんたみたいな人間が、付きまとって良いような人達じゃないのよっ!!」
「あの人達の前から消えてっ!」
約一名は、どさくさに紛れてセクハラ紛いのことするし、アルバム見ようとするし、真っ黒な確信犯だけどね…。
なんてことは口が裂けても言えなくて、次の拳は体勢を低くして避けてみる。
けれど、体を屈めたこととパンチを避けたことが逆効果だったようで…背中を足蹴にされてしまった。
「っ、流石に…効いた」
衝撃で肺を圧迫されたようで、息が苦しい。
咳き込んでしまいながら、体勢を立て直す。
「制服から見えなきゃバレないもの」
真っ黒で、凶悪な笑顔。
何だか慣れてる感じが、非常に危ないと言うか…これはヤバい、と頭の中で警鐘が響く。
けれど、私にだって引けない一線があって…気になっていたことがある。
リーダー格の後ろ、隠れるように立つ顔は覚えている。
C組の女子が、二人。
「化学の教科書と資料集…」
口に出した途端に、彼女達の肩が揺れた。
笑いで、揺れた。
「教科書は失敗したみたいだけど、資料集は成功したみたいね?」
「置かれていたのが二冊しかなかったから、いつもより多めに仕掛けてみたの」
一人が取り出した透明なケースには、銀色に光るカッターの替刃が数枚。
教科書には二枚挟み込まれていたが、これは非常に間抜けな挟み方で、自分の手を切らないようにするためか全く意味がなかった。
資料集には四枚…ご丁寧にもセロハンテープでちょうどページを開く辺りに同じ位置になるように綺麗に止められていた。
今日見るはずだったページにも、貼られていて。
「………っんだぞ…」
「ふふっ、痛かった?」
笑い合う声が、許せなくて。
「幸村が開くところだったんだぞっ!!」
堪えられなかった。
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