蒼海の王に花束を。

□観察2日目
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準備運動にテスト前練習、男女に別れてしまって進むせいで銀と話せずに授業が進む。
銀は腕の怪我を庇っていないようで、男子並みに高い鉄棒を何の苦も無いように回っていた。

テストも、男子が跳んでいる時は女子は壁際に避けているから、話せない。
俺を含むテニス部メンバーは全員一番高い鉄棒で、無難に逆上がりや連続逆回りなどを見せて、終わる。
その度に黄色い悲鳴が上がるのはやはり耳障りで。

テストを見る位置は自由で、自然とテニス部メンバーは寄り集まってしまう。
気の置けない仲は、やっぱり居心地が良い。
女子のテストが始まり、やはり低くセットされた鉄棒を無難に逆上がりして簡単に終わっていく女子達。
C組の女子に移り、銀の順番が近付いた。

「よし……次、銀嵐」

「はい」

教師が呼ぶ名前に返事を返して鉄棒の前に歩いて行く。
一番高い、俺達が使ったものと同じ鉄棒。
ほとんどぶら下がる形で、始まった銀のテスト。
逆上がりも出来ないんじゃないだろうかと、心配になったのも一瞬で、銀の体は綺麗に鉄棒に逆上った。

「綺麗な逆回りですね」

柳生の言葉の通り、一回反動をつけただけで銀は綺麗にクルクルと、本当にクルクルと連続で逆回りを決め、さらに足掛け回りまで披露して、両足でぶら下がると体を揺らしその反動で手を使わずに着地してしまう。

「流石真田の従兄妹…と、言ったところかの。
身体能力も高いようじゃ」

「もうちょっと鉄棒が高かったら俺だって出来たんだけどなぁ…」

仁王の観察と、ブン太の愚痴が漏れる。
柳生もテストを終えた銀を視線で追っている。
弦一郎も銀を見てはいるが、その理由はどう謝るべきか考えるためのようで、現にブツブツと呟きが聞こえてくる。
居心地が良かったはずのメンバーが、何故か俺の心にさざ波を立てた。

鉄棒を片付けて、束の間の自由時間。
女子はバレーやバドミントン、男子はバスケットに集中していて、柳生と仁王とブン太はさっきからずっとコート入りしている。
三人がシュートする度、歓声は響くけど、やっぱり五月蝿いとしか思えない。
弦一郎は一人壁際で壁に向かって唸って悩んでいて非常にウザい。
銀はどうしているだろうと思って体育館中に視線を巡らせると、直ぐに見つかった。

俺がいる場所からコートを挟んで向かいの壁際で、C組の女子と他の組の女子が作る数人グループと話し合っている。
何か決まったみたいで、一人の女子が銀の右腕を掴んで、引っ張り歩き出した。
女子が掴んでいるのはサポーターの部分で、遠目でも銀の顔が痛みで歪んでいるのがわかる。
そのまま引っ張られて通用口から出て行こうとする一瞬、振り向いた銀と視線が絡んだ。







朝から度々あった小さな不安が、蓄積されて爆発したかのように俺の心を掻き乱した。

(?)
(ブン太、急に止まるんじゃなか…って、アレは幸村じゃな)
(お前達っ、精市と銀を見なかったかっ?!)
(幸村君でしたらあちらの通用口から…)
(精市ぃっ!嵐っ!!)
(俺…気になるから行ってくるぜぃっ!)
(私も付き添います)
(…何かありそうじゃのぅ)



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