蒼海の王に花束を。

□観察2日目
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2 不安






休み時間の内に体育館に移動して更衣室で着替えて、集合する。
前の時間も三年が体育だったようで、体育館には既に器械が並んでいた。

鉄棒。

手前が一番低く奥に行くにつれて高くなる、一列に並んだ計8台。
そして、離れた場所に体操部が使う、正式名称はわからないけど、高くて大きな鉄棒が1台。

「……厳しいな…」

体操着に着替えた銀が溜め息を吐き出す。
昨日の肉離れのために右腕にはサポーター、何があったのかわからないが包帯巻きの左手。
当然だけど、手を使わなければ鉄棒は出来ない。

「何て言うか、ついてないね」

「…全くだ」

壁際で、鉄棒を眺めて喋る。
腕を組んで鉄棒を見据えて仁王立ちする姿は弦一郎にどこか似ていて、笑いそうになってしまうけれど銀らしいと言うか何と言うか。

「幸村くんっ!」

「お前さんら、はやいのぅ」

「遅刻するより良いでしょう」

「遅刻など、たるんどる!」

更衣室から出てきたA組とB組の四人が、俺を見つけて歩み寄ってくる。
ブン太に仁王に柳生…そして、弦一郎。
盗み見た銀は鉄棒の方を向いたまま眉根を寄せていた。

「仁王…柳生がいるから幻影じゃないね。
また幻影でサボるんじゃないかと思ってたけど、要らない心配だったみたいだ」

「屋上から連れて来ました」

「プリッ」

眼鏡のブリッジを押し上げながら柳生が得意気に話し、仁王が明後日の方向を向いて奇声を漏らす。
ブン太は俺の隣で座り込んでしまっているし、体育はこんな感じで毎回賑やかだ。
しかし、今日は弦一郎が登場した辺りから険悪な空気を纏う銀がいる。
弦一郎はその空気を読むこと無く銀に近付いた。

「嵐、昨日のことだが」

「………」

鉄棒を見据えたまま弦一郎を無視し微動だにしない銀。
ブン太が俺の短パンを引っ張ってきて見下ろせば、怯えるブン太の姿があった。

「銀がすっげぇ恐ぇんだけど…何かあったの?」

「昨日のアルバムの件で、あの後ケンカしてたみたいでね…まだ続いてるようなんだ」

「銀、怖すぎるだろぃ…」

ようやく弦一郎に銀が視線を向ける。

「ひぃっ!」

ブン太が悲鳴を上げて俺の足に抱き着き、仁王と柳生の動きまでも止まる。
例えるなら、絶対零度。
光を宿さない黒い瞳が弦一郎を射抜いていた。
弦一郎さえもが、怯むほどの視線。

「……私が怒っている理由を、お前は理解していない…」

「おっおおお前は…俺が精市にアルバムを見せようとしたから怒っていたのではないのか…?」

「…それは既に、私の中では解決しているし落ち着いている。
私が未だに怒っているのは別の理由だ、たわけが」

化学の教師に放った声より低い声での一蹴。
いつもなら赤也に対して弦一郎が放つ単語が、弦一郎に対して静かに放たれる。

チャイムと共に教師が二人入ってきて、銀は俺達の輪から離れていった。

「弦一郎、他に何かした?」

「幸村にアルバムを見せようとしただけだが…」

「……真田くんは、プライバシーと言うものをお忘れなのではありませんか?」

組別に集まり出す集団に向けて歩きながら、溜め息混じりの柳生の言葉に弦一郎が振り向くが理解していないようで首を傾げる。
見かねたように、仁王が肩をすくめた。

「まぁ、幸村もじゃが…アルバム見てもえぇか、って銀に聞いたんかのぅ?」

仁王の言葉に、俺は弦一郎と見合った。


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