蒼海の王に花束を。

□前述
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前述 邂逅






数日前に植えたばかりの花が根付いたかどうか様子を見に、美化委員会の一員である俺――幸村精市――は、校庭の一角にある花壇へ足を向けた。

全てを焼き焦がすように強烈だった昼間の日差しも夕方の今は幾分緩んでいる。
教務室へ日直日誌を届けた際、漏れ聞いたニュースに寄ると、今日は、今年に入ってからの最高気温を叩き出したらしい。
その余熱のせいか、日差しが緩んだこの時間でも、こめかみには薄く汗が滲む。
汗を手のひらで拭う。
校舎に残っているらしい女子生徒の黄色い悲鳴が響くが、気にせず足を進めた。

目当ての花壇に着くと縁取る石に膝をついて葉をよける。
根本の土は乾ききり、花は萎れたように頭を下げていた。
埋め込み式の水道に繋がった巻き取り式のホースの先、ホーストリガーを手にして蛇口を捻れば日中の暑さでぬるま湯となった水が噴出し地面を塗らした。
暫くして大分冷たさを取り戻した水を、ホースを伸ばしながら撒いていく。
端から端まで満遍なく、たっぷり撒いて戻り、俺はトリガーから手を離した。
ホースを巻き取りながら、ふと、グラウンドの彼方に向ける。
既に部活動も終わったらしく、静けさに包まれたフェンスの中は、何面もあるテニスコート。

脳裏を過る思い出に、小さく息を吐き出した…その時だった。

「うぉっ?!」

「?」

間近で起きた奇声に我に帰り、声の方へ視線をやる。
止めていなかった水。
圧力がかかり耐えきれなかったらしいトリガーを飛ばし、水を勢いよく吐き出しながら暴れるホース。
そして、見慣れない制服の女子生徒が、頭から、その水を被っていた。


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