□理解不能
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「なぁ、お前のこと教えてくれないか?」
「……はぁ?」

 俺は目の前にいる我等がキャプテン―――円堂守に冷たい視線を送った。
 それでも円堂はニカッと無邪気に笑い、

「いや、不動は俺らのこと知ってんだろ? でも俺達はお前のこと知らないなぁって」
「別に知る必要もないだろ?」
「でも“仲間”として、チームメイトのことは知っときたいんだよ!」

 “仲間”。
そんなの所詮、綺麗事にしか過ぎない。
 だが、その綺麗事に負けたのは紛れも無く俺が所属していた、真・帝国だった訳で。

「……俺に構うな」

 お前まで嫌われるぞ、と付け足す。
 すると円堂はきょとんとした表情になり、

「お前……“まで”? なんで不動が嫌われてることになってるんだ?」
「俺、メンバーから嫌われてんだろ」

 なに当たり前のこと言ってんだコイツ、と思ったが言わなかった。
 多分コイツには通じないとわかったからだ。

「お前、別に嫌われてなんかないぞ?」
「そーやって嘘つかなくていーんだよ」
「嘘じゃないって」
「嘘」
「嘘じゃないって!」
「じゃあ俺が近づくと鬼道クン達が避けるのはなんでだよ」

 これで円堂も反論出来ないだろう。
俺が話しかけると鬼道達がイラつくのは確かだし、最初だって印象は最悪だったはずだ。
 横目で円堂を見ると、予想に反して円堂の表情は笑っていた。
「避けられるのはな、」と円堂は前置きし、

「それはさ、皆が本当の不動を知らないからだ!」
「…………は?」
「本当の不動は、サッカーがしたい一人のプレイヤーなんだよ!
少し、素行が乱暴だから勘違いされてるだけなんだ。本当の不動はすげぇ良い奴だって、俺は知ってる」
「……、意味わかんねぇ。俺は俺だ。本当とか、そんなのねぇよ」
「ある」
「ねぇ」
「ある」
「ねぇ」
「あるったらあるんだ!」
「ねぇったらねぇんだよ!」

 ハッと我に返る。
 ガキみてぇ、と少し恥ずかしくなった。
 それをかき消すかのようにふいっとそっぽを向く。

「……まぁ、とにかく! 不動はホントは優しいんだ!」

 まるで、自分のことのように。
 ニコッと笑う円堂を見ると(ああ、この笑顔に皆惹かれたのか)と思う。

「……トマトは苦手」
「へ?」
「……バナナは好き」
「そうなのか!」
「表情がいろいろ変わる奴は面白い」
「うんうん」

 大して面白くもなんともないことを言っているのに、円堂は聞き入るように聞いている。
 最後に小さな声で、

「…………お前みたいな奴は、嫌いじゃない」

 少し円堂は一瞬ぽかんとしてから、その意味を考えるかのように数秒唸った。
 これなら、少しは鈍くても判ってもらえるはずだ。
 結論が思いついたのか、円堂はぱぁっと明るく笑顔で、

「ああ! サッカーやろうぜ!」

―――前言撤回を要求。
 やっぱりコイツのことは理解不能だ。
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