「キミはあまり感情をストレートに表現出来ないタイプなのはわかっているけれど」

「え」


ソファで隣に座り寛いでいたキースさんが切り出してきた。…なんだろう。嫌な予感しかしない。


「例えばいいムードになったとしてもキミから誘ってくれる事はないだろう?」

「まあ……そうですね。照れ臭いのもあるし、僕からそういうの言わないと思います」

身振り手振り大きく語るキースさんに同意して頷いたけれど。…どういう事なんだろう。突然言い出すって事は気になってるって事なんだろうけどそれにしたってこの言い方には何か意味がある。キースさんは隠し事とか下手だから。

「そこでだ。私は考えたんだよ」

ほら来た。どこかからどうせいらない知識拾ってきたんだ。

「したい、というのが恥ずかしいなら他の言葉を決めてみてはどうだろうか、とね」

「…参考までに聞きますけど、どんなのですか」

怪しい。実に怪しい。本当ならこうして代替案を聞く事すら嫌なくらいに悪い予感しかしないけど、何も聞かずに拒否するわけにもいかないし。そわそわと落ち着きのなくなりだしたキースさんは、足まで少し貧乏揺すりを始めた。一緒の時間を過ごしてきてわかった事だけど、こういう一連の動作が始まった時は根拠もなく自信のある証拠だ。
仕方ない、そう思いながらじっと顔を見て次の言葉を待つ。

「よくぞ聞いてくれた。例えば私がしたい時、キミの誘いに応じる時などはワン、と。逆にキミからの場合はニャア」

「お断りします」

「まだ全部話していないじゃないか……」

「その鳴き声に関しても突っ込み入れたいですけど、今の話じゃあ誘う時とそれを了承するものしかないじゃないですか。断る時はどうするんですか」

「!!…断るという概念がなかったので考えていなかった…!」

「万全に見せかけて穴だらけの提案じゃないですか!もう!」

思わず裏手でキースさんの胸を軽くはたく。やっぱりというかなんというか、本当にとんでもない提案だった。

「いい案だと思ったのに…」

しょんぼりと体格のいいキースさんが縮こまって膝を抱えている姿が可愛い。……ああもう。普段かっこいいのにたまに見せるこういう可愛いところがずるい。抱きしめたい、キスしたい。

「……今日はその提案受けておく事にします。…今後についてはまた改めて話すという事で」

キースさんが可愛いのがいけないんだ。僕は責任は全て押し付けてしまうと曲げられた膝を床に下ろさせ腿に跨がる。両肩に手を置いて。

「……イワンくん?」

ただでさえ恥ずかしいんだからあんまり見ないで欲しい。僕の突然の行動に驚いているキースさんの呼び掛けを無視して口を開く。


「……にゃあ」


「〜ッ!!イ…イワンくーん!」

「ちょっ…!いきなり抱き着かないで…!それに返事はどうしたんですか返事は!」

「ワン!ワン、ワンワンワン!!」

「言い過ぎです!あ!こら!…ひゃ…っ…」


足元にいたジョンが空気を読んで他の部屋に行ってしまうくらいキースさんは喜んでいて、僕にはジョンのそれと似た尻尾がキースさんに見えた気がした。






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