10000HIT企画

□HOTEL<前篇>
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テストの終了を終えるチャイムが鳴り響くと、いっせいに教室が騒がしくなる。
己の解答欄がすべてうまっていることを確認すると、幸村は一つため息をついた。
これで、テスト期間も終了だ。
「真田、いかがだった」
「加藤殿」

加藤清正。同じクラスメイトであり、下宿先が同じなので幸村にしてはめずらしくよく話す存在だった。
下宿の管理をしている秀吉様に恩があるからか、よく幸村のことを気にかけてくれているようだった。

「今日でテストも終わりだ。今日も図書室に行くのであれば私も…」
「あ、申し訳ありませぬ。今日は…」

「ねえ、あの人かっこよくない?」
「超イケメンなんだけど!」

ざわざわとクラスの女子が色めき立つ。
その熱い視線は校門に注がれているようだった。
窓際の席である幸村はさしてなにも考えず、校門へ視線を送る。そして息をのんだ。
黒髪をなびかせ、スーツ姿で校門にもたれかかる見慣れた長身。
サングラスで表情はよく見えないが、学生ではない大人びた雰囲気を漂わせていた。

「す、すみませぬ。加藤殿。今日は先に失礼いたします」
「お、おい真田!」


「…五右衛門!」
「あ、源二郎様。ちはー」
「迎えはいらぬと言ったではないか」
「だって、今日でやーっとテスト期間終了でしょ?早く源二郎様に会いたかったんすよ」
サングラスをとると、いつもの調子で笑いかけてくる。
彼の名は石川五右衛門。
しいていうなれば、幸村の恋人、である。
自分より4つほど年上の五右衛門は社会人である。高校生の自分とは違う大人の色気のようなものを携えているようだった。
そのため、先ほどから下校途中の女子の熱っぽい視線が五右衛門に絡みついているのだ。
好機の視線にさらされて、居心地が悪い。

「お主はめだってしょうがない…」
「あれ、嫉妬っすか?源二郎様」
「そんなものじゃ…っ!!」
いつの間に距離を縮めたのか、大勢の前で腰を抱かれそうになり慌ててふりほどく。
「ばっ…校内だぞ」
「だからですよ。ほら、牽制というか」
「…?」
いまいち五右衛門の言う真意がわからず幸村は首をかしげた。
自分を見上げてくるあどけない仕草をする幸村に五右衛門はため息をついた。
自分の目の届かない校内でこんなかわいらしい仕草をしているのでは、と思うと気が気でない。
「これだから心配なんすよ」
「…お主の言いたいことがよくわからぬ」
「まあいいです。ほら、源二郎様乗って」
校門の端にとめてあった車に押し込まれる。
あまり車には詳しい方ではないが、それでも十分な高級車であることはわかる。
助手席に滑り込むと、かぎなれた五右衛門の香りが充満している車内に睡魔がおそってきた。
「いいっすよ、寝てても」
優しく頭をなでられる。
テスト勉強でいつもよりも睡眠時間が短かったのも重なって幸村は眠りに落ちていった。



「源二郎様、起きてください。源二郎様」
「…ん、……ここは?」
どうやら車はどこかの駐車場に止まっているようだった。
五右衛門のマンションの駐車場でもない。見覚えのない場所に目を巡らせる。
いつのまに夕方になったのかあたりは薄暗い。
転々と車が止まっている中、目に飛び込んできたのはどぎついピンク色の看板だった。
そこに書かれた、ご休憩・ご宿泊の文字。
大きく描かれたハートは、ここがただのビジネスホテルではないことを物語っていた。

(まさかここは…)

「源二郎様、おりてください」
いつの間に回ってきたのか、五右衛門は呆然としたまま動かない幸村側のドアをあけると顔をのぞき込んできた。
さも当たり前のように降車を勧めているが、このような場所に来るなどきいていない。
「ご、五右衛門、ここは…」
「ラブホっすけど?」
(やはり!)
いけしゃあしゃあと言い放つ姿にめまいがした。
つまりここは、その、性行為を目的とした施設なのだ。
「ひ、久々にあったというのにお主は…」
「だって二週間もお預けくらったんすよ。おもいっきりエッチしたいじゃないっすか。ほら、降りて降りて」
「か、帰る!」
手を引かれ、車から降ろされたが、幸村はその腕を振り払った。
五右衛門との営みは嫌いではないが、正直このような場所でするのは恥ずかしいのだ。
逃げるように慌てて道路にでるが、周りに駅も見あたらない。閑散とした場所にぽつんとこのホテルがたっているようだった。
遠くには繁華街のような明かりが見えるが、とてもではないが、歩いていける距離ではない。(某ならばなおさらだ)
わざわざこの男は運転のできない幸村が自分で帰れぬような場所のホテルにつれてきたのだ。
にやにやと口元をゆるめ、車にもたれかかる五右衛門をにらみつけたが、どこ吹く風といった様子だ。

「で、どうします?」

選択肢など最初からなかった。

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