その他小説
□がぶり
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トシ兄が吸血鬼と人間のハーフと言うカミングアウト後、俺の価値観が変わり、俺の日常は…トシ兄を除いて全く変わらない。
「銀、終わったか?」
「…うーい、終わりましたよー」
「ん、えらいえらい」
俺の頭を撫でるトシ兄は優しい眼差し。恋人というか、子どもを褒める表情でくすぐったいのと、不満。ムッと手を振り払うと、トシ兄は苦笑して俺のタバコを取りキスをしてくる。タバコはトシ兄に。流れる仕草が過ぎた年月を痛感させる。
別に隠すつもりはないと、今まで就いた職業や仲間も教えてくれた。ゴリラが獣人、沖田が悪魔、山崎が妖精、その他諸々。良かったなとエールを貰ったり、トシ兄の千人斬りを聞かされたり(拗ねた)、よろしくお願いしますと託されり人間くさいというか何ら変わらない。姿が変化した時は流石に驚いたけど、性格が全く違わないから見方も変わらなかった。その時のトシ兄の安心した顔は失神するかとおもた。
「忙しそうだな、顔が」
「お陰さまでぇ」
「泣いたら飴が待ってるぞ」
「もう泣きません!」
「 別の意味で啼かしてぇ 」
「まだ学校!エロい顔はしまいなさい!」
「背徳はオレの餌です」
そーですね!陳腐なAVよりも特殊設定だよ。イヤじゃないよ?も、燃えないこともない。だ、だってさほら、長年片想いしてた人と恋人になってまだ日が浅いし、ベッタベタなこともしたい。
…うん、学校、先生と生徒、放課後に二人きり。秩序を重んじる場でタブーを犯す。色気を全く隠さない眼で見てくるこの人ホント存在がエロい。タバコを操る指が、夜のアレをフラッシュバックさせる。
「テメェも学校でしていい面じゃねぇな」
「…誰のせいだっつの」
「今日もドロドロに甘やかしてやっから」
「うぅ〜。嬉しいけど後がこわい…」
「ん〜?何がだ?」
吸ったタバコを灰皿で潰してからトシ兄は俺を姫抱っこした。抱き締めた、じゃなく抱き上げた。成人男性を軽々持ち上げ、イスも机も何も無い所で座った。空気椅子状態の足の上に俺を座らせる。もちろん寄りかかった。今更驚かねぇ。
「だってさぁ、無意識に甘えちゃったら黒歴史もん…」
「そん時はそん時だろ。オレはお前が甘えてくれる方が重要なんだよ」
(まぁ…アレを考えたら全然足りないっていうか)
別れたことを思えばまだまだ寂しさは埋まらない。子どもの頃に出来た空洞は大人になるにつれて拡がった。気付かない振りをしていたけど、出逢った時に埋まり出した空洞は、隣に居ないだけで不安な程に広いものになっていた。
「…甘えてぇのにトシ兄がいないんじゃ意味ねぇじゃん」
「銀が呼んだら分かる」
「ズルいズルーい!俺だって分かるようになりたいんですけどぉ」
相手は自分の位置を把握できて、喚べば手が届く距離に。でもそんな超卑怯技が使えるのはトシ兄だけで自分は使えない。なら俺が同じになればいいよね。そうだよ、同じに…!
「まだ吸血してねぇのに思いきったな」
「別に忘れてたわけじゃねぇつぅかトシ兄仲間にしてくれる気配全く無いから焦ったらっていうか何で俺だけ分かんねぇのってムカついたんだよコノヤロー」
「ああー、銀を可愛がる事で頭が一杯だった」
…否定しませんけど。傍にいると今みたいになでなでぎゅうぎゅうされます。子ども扱いに不満たらたらだとキスもくれる。子どものキスも、大人のキスも。過去の俺と今の俺が泣かないように、満たされるように何度も。こっちが恥ずかしくなるくらい愛おしい眼で文字通り可愛がられてます。ふへ、幸せ。
「 丁度いい、ちょっくら人間捨てるか? 」
「………え?」
「よしよし大丈夫。痛ぇ事はシねぇからなー」
「 え、えええええ? 」
そんなっ、そんな「ちょっとコンビニ行かない?」のノリなの!?幸せ浸ってて聞き流しそうにだったんだけど。
驚きすぎて動くのを忘れてる隙に姫だっこされた。その名の通り準備室の景色は一瞬にして俺とトシ兄の家に変わった、と言っても普通のマンションに住んでる。
『瞬間移動』というチート技をいとも簡単に使ってくるんでもう慣れた。