その他小説

□貴方に捧げたもの
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−銀髪天パ、死んだ魚のような眼、よれよれの白衣、やる気の無い態度。そんなダメ教師のレッテルを初っ端から貼られた俺であるけど、此ほど躍起になったことはない。それもこれもある生徒のせい。

俺の中で大半を占めるある意味問題児の生徒は今日”も”準備室に呼んでる。丁度ドアがコンコン鳴る。どうぞと言えば失礼しますと定型文。


「銀八先生、おやつ持ってきた」

「おー、あんがと。はい、隣に座って」

「あれ、仕事は?」

「んなもん気合いで終わらしたっつの。いーからお話しよ」

「ゆっくり出来るんですね」


嬉しそうに穏やかに笑う様は、そこいら一帯の女子を卒倒させるんじゃなかろうかという威力。このイケメンくんはソレを無自覚に振り撒く、特に親しい者に。俺は後者。


「カギ閉めといて」

「はい」


ただ言われたことを素直に、何故と疑問を持たず聞かずカチャリと閉める。…多分、本当に何も考えてないんだろうなと準備してたブラックコーヒーを傍に置く。そうすればコーヒーが目の前にある場所に生徒が座る。お隣には俺が居ます。近くに、というよりくっついてます。普通はおかしいよね、でもこの子ったらなンも言わねぇの。美味そうにコーヒー飲んでんの。うん、出逢いもこんな感じだった。はい、回想入りまーす。


−−−−−−


−俺が彼を初めて見掛けたのは入学式が始まる前の桜の木で。注意したら、振り返った相手の容姿に引かれた。すいませんと戻って行った、それが初対面。第一印象はクールなイケメン。担任ではなかったから名前は知らないまま。関わりなく半年経って、久し振りに中庭で飯を食おうとしたらベンチに見覚えのある後ろ姿。横顔を覗くとあのイケメン。相手も気付いて目が合う。


「あ、ど、どうもどうも…」

「こんにちは、坂田先生」

「はいこんにちは…って、俺知ってんの?」

「入学式で一番印象に残った先生ですから」


あ、ですよねー。一発で覚えるナリですよね。俺もオメェみてぇなイケメン初めて見たわ。でもなんか違和感あるな。雰囲気とかチラチラ見える黄色い物体とか。

あからさまに視線を向けると気付き手を休める。


「マヨネーズが好きなんです」

「いやその量は好き以上の範囲じゃねっ?」

「よく言われますね」


そう言ってもくもく食べ出す。表情は変わらないのに、美味い、好きのオーラが伝わってくる。ちょっと会話して、雰囲気見て第一印象『クール』を打ち消したら違和感が飛んでった。


「えっと、隣いい?」

「はい、どうぞ」


少し驚いた風を見せたがよく見えないと気付かない程うっすらで、すぐ隣へ勧めてくる。遠慮なく座ってアンパンとイチゴミルクを袋から出す。糖分糖分と気分良く食べてたら今度はこっちに視線。興味があるのか黄色い弁当を食べながら俺やら食べてる物に眼をやってる。


「甘いの好きなんですね」

「好きってもんじゃねぇよ。俺と糖分は一心同体なんだよ。てめぇにとってのマヨだよ」

「…そっか、そうだな。坂田先生って面白いな」


…クールそうな子の微笑みって、見惚れる以外の選択肢なくね?しかもよく聞かなくてもメッチャいい声なんですけど。何この顔と性格と味覚の違い。ギャップを狙ってるの?


「あ、なら…。先生、口開けて」

「え、なんで」

「 クッキー 」


あーん。とてもいきなり過ぎますイケメンくん。はいあーんが衝撃的で時が止まったよ。弁当袋から取り出したクッキー美味しそうとかの前にはいあーん。時が動かない俺にマヨは入ってないよと一言。それも気になってましたけどはいあーん。あ、手で受け取ればいいんじゃないか俺ってば簡単なこと思い付かないんだから全く、ほんと全く。

そう考えたのにお口で受け取りました。俺何してんの?ああクッキーうめぇ。


「どう?」

「うめぇ。このメープルクッキー」

「凄いな先生。分かるんだ」


もう一枚いる?と同じくはいあーんで差し出された。食べました。小麦の素朴さとメープルのまろやかさが口当たりのいいクッキーで甘党には堪らない。何でお菓子?と聞けば「母さんがお菓子作りにハマってて」とほぼ毎日持たされるらしい。何それ羨ましい。

イケメンくんは二枚食べて、最後の一枚はくれた。あーんでした。気持ち悪くないのはイケメン補正なのか。…変な考えがよぎったのは置いといて。ひ、惹かれてないよ?男だし、そう男だし!
 
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