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□うさ銀の日
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恋人の銀時が猫になって数ヶ月後のこと。それは巡回中に起きた。顔にぽふりと毛玉が降ってきた。


「 …土方さん、ナニか降ってきやせんでしたか?銀色の毛玉が 」

「 …そうだな総悟。オメェには桃色の毛玉だったな 」

「 見知った奴の手から跳んできやせんでしたかぃ? 」


降ってきたというのは多少語弊で、正確には人の手から曲線を描いてオレが銀色の毛玉を、総悟が桃色の毛玉を顔面でキャッチした。その時毛玉から名前呼ばれた気がしたんだが何故だろう。聞き覚えがあるのも何故だろう。


「 あの…すいません、お二人とも大丈夫ですか? 」


これまた聞き覚えのある声。毛玉が跳んでくる前に見た人物、一致する声の主は万事屋んとこのメガネ。申し訳なさそうに声だけ聴こえる。


「大丈夫だ…が、コレ取っていいのか?」

「あ、はい。取ったら自分の手に乗せてくれますか」

「ああ…」


上を向いてる訳ではないのに落ちない毛玉を剥がす。ソレを掌に乗せるとバッチリ目が合う。死んでる紅い眼がこっちを見ていて、ふわふわの銀髪天パから長い耳が生えてる。


「 十四郎、よっす 」

「やっぱお前か…。今度は何があった」

「辰馬が(以下省略)で俺と神楽がこうなった」

「あー…、それウサギ耳だったのか」

「うん、ウサギ。今回はウサギそのものにならなかったんだよね」


と、ウサギ耳を生やした手のひらサイズの銀時。と言っても人間をそのまま小さくしたわけではなく、なんと二頭身のミニチュアサイズ。短い腕と、小さい手でウサギ耳を引っ張ってる。服装はいつもの和洋スタイル。


「おいドS!ちゃんと持つアル!」

「旦那もチャイナも何やってんですかぃ。ちっさくて張り合いがねぇぜ」

「スキでこうなったんじゃないヨ!だーかーらー!そこ掴むナー!」


いつもの騒がしいケンカの始まりかと思ったがサイズからして総悟が有利。手には乗せず猫を持つように首根っこを掴んでる。ジタバタと手足を伸ばしても総悟に全く届かず仕舞い。

生き生きとしてる総悟に対してチャイナの表情は怒ったものから悲しそうに。総悟も気付いたのか酷く驚く。


「お、沖田さんっ、早くちゃんと手に乗せて名前を呼んであげて下さい!」

「は、は?何言って…」

「早く!」

「わ、分かりやした」


メガネの切羽詰まった物言いにオレも何事かと思う。早くと急かされ急いで乗せ名前を、大分吃りながら何とか言った。そうしたら悪態をつきながらもチャイナは嬉しそうに総悟を見る。

「微笑ましいわぁ」と手の上のおっさんウサギが喋る。


「どういうこったコラぁ…」

「んー?新八から取説があっから待っててあげよ」

「取説て。…珍しいし、いいが」

「そうそう。十四郎は銀さんを構いなさい」


ケンカせずに照れあってる二人。確かに微笑ましいなと銀時に触れる。

柔らかい頬を指で撫でると、豆粒程の両手が人差し指を掴む、というより添える感じに。猫と同様に胸にクるもんがある。


「落ち着いたみたいなんでそろそろ説明しますね。ハイそこ、イチャつかない!」

「えー、これだからぱっつぁんは…」

「アンタが余計なことしたんでしょうが!」

「いいから話すアルダメガネ」

「ダメガネじゃねえええ!」


小さい銀時とチャイナに人間をかけたメガネが言い争いをするなんともシュールな光景。何も言わず眺めてるとメガネが咳払いをして懐から紙を取り出す。

一応真面目っぽそうなので触れてた手をポッケに突っ込むと銀時がしゅんと、ウサギ耳もしゅんと、手も名残惜しそうに空にいる。動悸が大変なことになるので持ってる方の指で撫でた。総悟の生暖かい眼は無視した。メガネは諦めて話し出した。
 
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