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□かぷかぷ
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昔、容姿で苛められた。助けてくれたのが先生ともう一人、兄と慕っていた人。子どもから大人まで忌み嫌う銀髪と紅い眼をキレイだと言ってくれた。二人が向けてくれた優しさに救われた。その人とは数年しか一緒に居なかったけど、今思えばあの人が俺の初恋だったんだろう。
−そっから十数年、ひょんな事からその人と再会した。あの頃と変わらず、俺の天パとは真逆の黒髪ストレートをなびかせ瞳孔ガン開きのムカつく程のイケメンフェイスのお兄さんは、高校教師として働いてる俺の”生徒”である。
「 −どういう事か説明してもらおうかな 」
「 …あ、あー…、ぅえっとデスネ… 」
ひょんな事が起きた直後、問題の人を拘束中。目に見えて動揺してる内に更に追い討ちをかける。
「土方くんが俺に言ったぁ、セリフぅ?聞いた覚えあるんだよねぇ」
「たまにありますネ」
「そうだねぇ。…でも、声も、言い方も、表情もソックリでさぁ」
「面白い事もあるもんですね」
だんだん冷静さを取り戻してるみたいだけどもう遅い。疑念はとっくのとうに確信に変わってる。
「 仕草もおんなじで、天パ撫でてくれる手とか、抱き締めてくれた腕とか、背中さすって落ち着かせてくれるとことか、 」
つらつら並べれば軽く眼を逸らす。当然だろう、屋上で同じ事されたんだから。
−タバコを吸いに来た屋上にサボって寝ていたソックリさん。懐かしさが蘇った。河川敷で小さい自分とその人が昼寝に勤しんでる。時間になって起こすのが俺の仕事だった。懐かしさと嬉しさが相まって、低くなった声であの時と同じ感じの起こし方をした。それが運命の分かれ道だった。再現するとこう。
−−−−−−
「 土方くん、起きて? 」
「 んん…? 」
「起きたー? ったく、堂々とサボッ、うわっ!?」
「んだよ…。もうちょっといいだろ。オラ、撫でてやっから銀も寝ろ…」
「 は…。ぎ、ん?え、ちょ、え… 」
「 おー、よしよし… 」
「ちょ、うそ、なんで、だって、としに、トシ兄はっ、」
「んー…?銀、お前重くな…………」
「 っ、………… 」
「……………」
「……トシ兄」
「 !! 」
反応した表情で、微かに有った疑念と確信が一気に押し寄せた。しまったという表情の後、「間違えました」と逃げようとする人をふん捕まえる。腕を振り解こうと力を入れてくる。直ぐに力では勝てないと察し、土方くんが”あの人”なら俺のアレに弱いはず。
「 待ってくれないと、泣くから! 」
「 うっ、 」
効きました。速攻拉致りました。冒頭に戻ります。
−−−−−−
この追求で、世界観が変わるのはなんとなく分かる。でもどうでもいい。今、俺の心を占めてるのは愛しさと切なさと怒り。
「寝起きの掠れ声でぇ、何だっけ?銀?俺も子どもん頃そう呼ばれてたなぁ。けどその呼び方さ、その人しか許してないんだよね。それが?なんの迷いもなく?流暢に呼んだよねぇ?」
「…知り合いに似ていたもんで」
「へーふーんそーなんだー。偶然だね〜」
「 す、いません 」
「んーそうだなー。土方くんが言う”俺のソックリさん”?教えんなら許してあげてもいいよ?」
冷静になったのならば適当に話を作って返せばいいのに、う、と言い淀む。ま、言ったところで信じないけど。
…もう、確信してる。土方くんがあの人だってこと。俺が、分からないとでも思ったのだろうか。姿が変わらないから有り得ないだろうと。
だったら、何で…。