その他小説
□もふもふ
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この世には人では理解が出来ないモノがある。悠久のトキを超え、現代に潜む怪異。かくいうオレはソチラ側ではなく、人間。馬鹿げた話だと思わないのはガキの頃に一度人ではないモノに会った事があるからだ。今でも信じてるのは元凶が目の前に居るから。
「隠せよ、見つかったらどうすんだよ」
「大丈夫大丈夫。気配で分かるから」
何かと雑用を手伝わせる生徒使いの荒い教師。と、思っていたヤツが実は妖怪で聞く限りでは相当強いとか。
(まぁ…それは見れば分かるというか)
普段はよれよれ白衣で銀髪天パメガネのやる気のない紅い眼に、ペロキャンだと言い張りタバコを吸うただの(?)人間。いざオレと二人になると姿を変える。銀髪天パ赤眼は変わらないが、頭から生える三角獣耳、シャツとネクタイと白衣を羽織っていた格好は神職が着る真っ白い装束を身に纏う。そして腰辺りからオレと同じくらい長くデカいふわふわの九本の尻尾がゆらゆらと存在感を放つ。
「ほらほら、頑張んないと終わんないよー」
「ならもっと早く動けよ!」
「イヤですぅ、土方くんと二人っきりの時間だもん。だからやんねぇ!」
「やらねんなら引き受けんな!!」
先生の仕事を何で生徒のオレがやってんだよ。その姿で仕事されんのもシュールだけど。
九本の尻尾を波みたいに動かしながら、ついでに耳も動かしながら書類整理する姿に何度笑いそうになったことか。あと我慢出来ずに触ったら変な声出されたから止めた。
「反応してほしいトコそこじゃないんだけど…」
「 尻尾か? 」
「 ソコでもない! 」
今は慣れて普通に会話してるが、人間じゃないと妖なんだと言われた時の衝撃といったらなかった。
「 いやお前とんでもなく冷静だったよね 」
「 人の心を読むな 」
「読まなくても顔に出てるーっ」
「見た事あるから」とは言わずただ静かに見つめていたら「これで信じる?」と本当の姿を視せてくれた。その姿に別の意味で驚いた。被せる様に「仲間になれ」の言葉にプリントをばらまいて(持ってた)、「好きだ!」の言葉に肩にかけてたカバンが落ちた。
その場は気が向いたらと流し、諦めないとプリントを拾いながら紅い眼がギラリと光った。何とも言えない威圧感に襲われた。負けるのが癪で睨み返したら嬉しそうに笑った。やっぱり負けてる気分になったので先生の尻尾を掴み弄んでやった。「何その順応力ぅぅぅ!」と準備室に響き渡った。
「何千年も生きてるとは思わねぇな」
「声に出してる!」
「だって、ほら」(もふっ)
「 や、やだっ 」
「ふにゃふにゃになってんぞ」
「お前に触れられっと勝手にそーなんだよ!」
「いじくったからか?」
変な声は置いとけば尻尾は魅惑のふかふかさ。なんかもう堪んねぇので九本まとめて抱き締めてみた。
「 ヤベェ 」
「お前がヤベェよ殺す気かコノヤロー尻尾も俺の一部なんだからなお前が抱いてんの俺だからな」
「へぇー、先生抱き締めてんだ。尻尾と身体だと感覚違うのか?」
「モフるな、撫でるな。そんなに言うなら抱き締めて下さい!!」
人に尻尾はないからどう感じるのか分かんねぇからひたすら触れる。それに嫌そうには見えないし。
「 コレ抱いて寝てぇ 」
「いいの!?それともスルーなの!?でも聞いたから、押しかけるから、むしろ連れ去るからァァ!」
「先生バカみてぇに元気だな」
「お前のせいだからね!?色んなトコをスルーしてるトシくんのせいだから!!」
「そういやぁ昔アンタにそう呼ばれてたな」
「 重大なんをサラッと!? 」
と、いうわけでガキん時に会ったのが先生。今と同じ姿のまま出逢った。初めて学校で見た時は似てるなと思っただけで、同一人物とは考えなかった。先生は機を見て言うつもりだったらしいが、オレの一言で色々溢れ出たらしい(風吹いてないのに木々が揺れた)。