その他小説

□元より負け戦
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世間でいう恋人同士となった万事屋の主、坂田銀時と会う約束をした。非番の前日に電話を入れ何もなければ会える。その日まで何事もなく、約束を守れそうだと連絡しておいた。「期待しないで待っとく」とやる気のない声だったが自分の心は浮き立っていった。

いつもの着流しに袖を通し、万事屋に繋がる階段を上がっていくと手をかける前に玄関が開く。出迎えたのは、真顔の銀時。無言でオレが吸ってた煙草を取って持っている灰皿で潰す。消された怒りは表情一つ変えない銀時が怪奇すぎて去った。


「 …どうした 」

「 万事屋は禁煙になったんで 」


そう言って中へ入ってく背中をただ見つめる。玄関は開けっ放しだが入ってもいいのか。禁煙つーことは歓迎されてないのか、ダブルの衝撃で足が動かない。が、取りあえず開いてはいるので入っとく。居間へ行くとテーブルにはおつまみが作ってある。出迎える気はあったようだ。銀時はいなかったがソファに座る。すると直ぐに酒を持って顔を覗かせる。


「今日は寒いから熱燗にしといたぜ」

「あ、ああ、悪ぃな」


お互いに酌をする為に隣に来る。オレは銀時の作った料理をつまみ、不機嫌な恋人は一気に酒を煽る。さっきの件と繋がっているんだろうか。


「 …それで、何かあったのか 」

「 −…分かるか、お前に、 」


酒のせいなのか、はたまた別の意味なのか、頬を赤く染めて睨まれる。瞳が潤んでる様に見えるのは気のせいか。


「タバコ吸ってねぇ俺が、タバコ臭いって言われた時の俺の気持ちが…!」

(…ああ、チャイナか)


オレ色に染まってる意味では恋人冥利に尽きるが、娘(?)にツッコまれたら何とも言えない。変に勘のいい子どもの事だからわざとの確率が高い。自分の匂いには気付けないもんだから、第三者から聞かされるといたたまれない。この様子から察するに、オレのせいだと分かってジワジワと羞恥で染まっていったんだろう。後に冷静になって静かにキレたのか。


「…まぁ、気を付ける」

「気を付ける、じゃねぇ。万事屋じゃ吸うなつってんの」


確かにここで吸わなかったら匂いは取れていく。ただオレに染み着いたものはシャワーを浴びるだけでは落ちない。触れなければいい話だが。


「 返事は? 」

「あ、ああ。吸わない」


煙草はズルズルボールで懲りた。止めろはキツいが減らせというのならまだ大丈夫。だからといって、吸わないとなるとさすがに口寂しくなってくる。つまみ食ってる間は良かったが、今は煙草も食い物もない。口に指を当てて舌で下唇を舐めていると、銀時が呆れた溜め息を吐く。


「お前ね、ソレ止めてくんない?」

「ああ?気にしなきゃいいだろ」

「気になるっつの。何、そんな吸いてぇの?」

「吸いてぇつうか、落ち着かねぇ」


飴でも何でも口に放り込みてぇ。甘ったるいのはゴメンだが。万事屋に甘いもん以外あるわけないし、マヨを啜ろうものなら殴られる。至福の時を邪魔するなと言えば、マヨ臭くなると万事屋から追い出そうとする。久し振りに会えた恋人にその仕打ちはないだろと声を上げれば、文句があるなら帰れと冷めた眼で一言。あの時程、心折れそうになった事はない。ああ…デレが欲しい。


「前置いてったハッカの飴ねぇか?」

「万事屋にそんなもんあると思うなよ」

「食ったんかい。てめぇ甘くねぇつってたじゃねぇか」

「飢えてたんだよ」

「 働け!! 」


アレならまだマシだと思ったが無くなってるとは。

ズルズルボールの時にも禁断症状が出て、これなら食えるんじゃないかと渡された飴。意外とイケたし、銀時も食わねぇらしいから一袋置いていた。吸いすぎるなと一応心配してたみたいだから(今だと臭いを気にしてたのか)たまにソレを舐めていた。

悪びれもしない銀時に舌打ちして本当に無いのか確める為にソファから立ち上がる。すると、此れ見よがしに溜め息。


「そこのヘタレ方くん」

「誰がだコラ」

「銀さんが居るのにさ、飴しか思いつかねぇの?」

「 あ? 」


ニヤニヤ卑しい笑みで誘うような台詞。何企んでやがるんだ。

机には行かずソファに戻り銀時の隣に座る。正面を向いたまま横目で見ると変わらず笑っている。


「 キスさせろぐらい言えねぇのかなー? 」


…コイツ、マジで何考えてやがる。ツンデレのツンしかないコイツが、ツンツンのコイツが誘ってくるなど有り得ない。企んでいるか嫌がらせか。
 
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