ツナ攻め小説III
□春の嵐
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「10代目の右腕は二人もいらねぇんだよ!」
「ふん、ならてめぇが要らねぇな」
「 …… 」
「「10代目ぇ!何とか言って下さい!」」
何を言えと?
リボーンが放った分裂弾に当たった獄寺君。衝撃なコトに二人になった第一声が右腕争い。らしいけどもっと他に有るよな。
「つかてめぇ、何時まで引っ付いてんだ。迷惑だろ」
そうなんだよね。片方の獄寺君が物凄く引っ付いてる。腕を組んで、ケンカする時以外は俺の肩へ頭を預けてる。良い匂いする、じゃなくて、いつもの獄寺君だったらくっつくのは疎か触ってくるのも稀だ。それが一ミリの間も無い。
「はあ?お前何言ってんだ。10代目にくっつけんのは恋人であるオレの特権なんだよ!」
何でそんなコト言うのか分からないとでも言う様にもう一人の獄寺君を睨み付け、腕をぎゅうっと絡める。隣にいる獄寺君の俺を見る眼は、恋人同士の甘さがある潤んだ瞳。くっついたり擦り寄ったりと甘えてくる。
「…10代目、鼻の下伸ばさないで下さい」
「 えっ?ウソ!? 」
伸びてた!?その前に獄寺君が悪態突いてきた!?
口を開けば誉め称える彼が、初めて出会った時の目付きと冷静な音声での攻撃。かなり堪えるんだけど。
「10代目、そんなヤツは気にしないでオレを見て下さい!」
「ありがとう獄寺君…」
慰めてくれてるんだろうか。獄寺君に怒られて獄寺君に慰められるってどういうコト?
「…それいやッス。隼人と、呼んで下さい!」
「で、でも…」
今まで獄寺君と呼んできたせいか、いざ名前でとなると照れる。
それにしても此方の獄寺君、積極的だ。俺を第一に考え、自分は遠慮する彼がどんどん気持ちを前に出しオレは10代目の恋人だと言ってくれる。だからか、嬉しさ半分戸惑いが半分。
「隼人と呼んで下さらないと返事しません」
「ええっ、ちょ、」
可愛い。ぷくーっと膨らんだ頬をつつきたい。うん、つついていいかな。ワガママな獄寺君とか、襲ってもいいかな。膨れっ面にキスとかいいよね。返事してくれないのは寂しいからちゃんと彼の名前を呼んで。
「 隼人 」
「 っ! 」
「 …… 」
真っ赤になる所まで一緒だけど隼人は思いきり抱きついてきた。首回りに腕を絡めて笑顔で俺の頬にキスを返す。う、うわ、全然違う。キスをキスで返してくれるなんて初めてだ。
「デレデレしないでくれますか」
「ご、ごめん!えと、ご、獄寺君…?」
「無理しなくてもそのままでいいッス」
うう、こ、怖い…。
此方の彼は例えるなら俺以外と対峙してる時。一つ違うのが怒鳴るのではなく鋭く指摘してくる。キレイでカッコいい獄寺君が怒ると迫力がある。あと慣れてないのもあり気圧される。
「お前、オレの癖に面倒くせぇヤツだな」
「 隼人? 」
獄寺君を挑発するかの様に密着する。隼人の言い方だと彼の態度は裏があるっぽい。鋭い目付きに動揺が映る。
「羨ましいだろ。名前を呼んで下さって、頬にキスだからな」
「う、羨ましくなんかねえ。オレは別に、10代目に隼人とか、キスとか、別にっ…」
チラリと俺を見て、眼が合うとバッと大きい動作で逸らす。耳まで真っ赤なのが見てとれる。
「獄寺君、して欲しいの…?」
「そ、そんな事無いッス。羨ましくも、して欲しくもないッス」
「えーと、」
俺には羨ましい、して欲しいとしか聴こえない。そういえば、獄寺君って素直じゃない一面もあったっけ。山本やお兄さん、クローム、ランボ、イーピンにビアンキ、皆の事が好きで心配してる癖に表に出さない。図星を指されるともっと反発する。
こんな感じなんだ…。
「ね、面倒くさいでしょう」
「ふふっ、そんなコトないよ」
ある意味素直だ。コソッと耳打ちする隼人は煩わしそうだけど、俺にとっては可愛いだけ。
「名前はダメッス。オレと被りますから」
「うん、ありがとう」
何をするか察したのかスッと離れる。譲れないトコはちゃんと釘を指して。
目線を逸らした獄寺君の頬に触れる。反応したけど振り払うコトはしない。イヤじゃないと分かる。素直じゃない彼に俺からお願いをする。