book2

□乱菊+恋次
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乱菊+恋次



「一角と弓親は?」

お茶を煎れてきてくれた一護が問う
定期報告に瀞霊廷に戻っている隊長とはここで落ち合う予定なのだ
ここはもちろん一護の部屋だ

一護の持ってきたお盆の上には恋次とあたしのぶんが来客用の茶碗で、朽木と一護のぶんは専用のカップで四人分ある

あたしたちに渡した後、当たり前のように朽木にお盆を差し出す一護と当然のように自分のカップを取る朽木
その様子に思わず恋次を見る
気づきもせずに暢気にお茶をすすっているが大丈夫なんだろうか

一護と朽木はすっかり自然体で、朽木がこの家で家族のように受け入れられていることがわかるというのに

死神の時間の感覚のままでいてあとで泣く羽目にならないといいけど
相手は人間の一護なのだ
一年でどんどん成長する
いっしょにいる朽木もそれを肌で感じて一護の感覚に近づいていくだろう

成長に多大なる関心を寄せる隊長を持っているおかげで、乱菊は一年の変化に関心が高いのだ

朽木と一護はお茶受けに出すお菓子で揉めはじめている


ついつい恋次に声をかけた

「恋次。あんた、そんなに余裕かましてて本当に大丈夫なの?」

なにがスか?、なんてやっぱりまるでわかってない
朽木と一護よ、と言えばようやく
ああ、などと呟く

「なんか一護といると流魂街で仲間といた頃のルキアみたいだなぁと…。」

朽木と一護を見ながら目を細めて懐かしむ目つきになる
だからそんな悠長に見守ってどうするのだ
気持ちは分からなくはないのだが

自分がやきもきしたところでどうにもならない
そう思い直して小さく溜め息をつく
隣では恋次がまだどこか遠くを見ていた


「俺も昔はルキアとちょっとしたことですぐ言い合いをして…。
半分は飯のことだったんスけどね。」

話しかけるでもなく小さく恋次が呟いた

そうね、としか言えなかった
乱菊はギンと食べ物を奪い合って言い合いをしたことなど一度もない
むしろ食べ物を譲り合って喧嘩になったことならある

「ああやって遠慮なく当たり前に言い合っていられるときが
いちばん楽しいっていうか…。」

「あとであの時があったから今こうしてられるんだって思うときがきっと来るから、
なんつーか…。」

恋次は優しい子だ
朽木を取られる心配よりも、朽木と一護の今後の心配をしている

「そうね。あんたの言う通りよ。」

本当にそう思った
あの頃ギンといたから、あたしはいま先遣隊の一員としてここにいる
思ったよりもずっと声が湿った


それに気づいた恋次が振り向いた
そこはそっとしておくものだ

「乱菊さん、もしかして乱菊さんにもこんなことが…?」

珍しく鋭い
思わず目を逸らしてしまった、これでは肯定とおなじだ


俺が漏らす言葉を静かに聞いていてくれた乱菊さんが、気が付いたら泣きそうに見えた
なにかマズいことを言っただろうか?

俺とおなじ気持ちを経験していて泣きそうになるってことは…

あいつらの顔が、あいつらの墓が思い浮かんだ
そうか、乱菊さんも流魂街の出身だ
俺とおなじ経験があってもおかしくない
それを俺はルキアのことばかり
乱菊さんの幼なじみはきっともう…
だから言いたくないんだ


「なによ、もぅ。」

俺が思いを巡らしてあたふたしてる間に乱菊さんはいつもの声に戻っていた

「いえ、なんでもないっス…。」

乱菊さん、俺、…すいません

「幼なじみはいいわよね。
大事にしてあげなさいよ。」

優しい顔をした乱菊さんが言う

乱菊さん、俺、俺…


結局、はい、としか言えなかった
つらいことを思い出させてしまったかもしれないのに、そんな俺に乱菊さんは優しい

俺が乱菊さんならおなじことが言えただろうか
ルキアを失うなんてことは考えることもできない



そうしてる間にルキアと一護は折り合いがついたらしく、茶菓子をもってきた
そこに一角さんと弓親さんも来た

乱菊さんはもう一角さんとふざけあっている

それを複雑な顔で眺めていただろう俺に弓親さんが声をかけてきた

「どうかした?」

俺はなんと答えていいかわからず

「俺…、乱菊さんを尊敬してます。」

思わず本音を口にした
意味のわからない弓親さんは驚いた顔をしたあとで、
そう、頑張りすぎないようにね、と言った


あとから笑って、
朽木さんには黙っててあげるから、と言われたがその意味は俺にはよくわからなかった



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