book2

□理吉+恋次
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理吉+恋次



あの人は大丈夫だって言ったけど本当に大丈夫かな?
俺はやっぱり心配だった


案の定、恋次さんは片方の眉をぐっと上げて、んん?と漏らすと
鋭い目線で俺をまっすぐ見下ろしてきた

「理吉。」

恋次さんがすごく低い声で俺を呼んだ
他になにも言わない

怖い
その瞬間だけ恋次さんは朽木隊長に似ている
前に一度だけ怒られている恋次さんと怒っている朽木隊長を見てしまったことがある
あの時の朽木隊長とそっくりの有無を言わせない冷たいオーラだ

日頃は朽木隊長と恋次さんじゃまるで似ていないのに
それにこの先もっと怒られることになるかもしれないというのに

「あの、その、ええと…」

俺はこわごわと言い訳まじりの説明を始めたんだ



それは恋次さんのお使いで鯛焼きを買いに出た帰り道だ
正確にはお使いのついでに鯛焼きを買ってきてくれたら
俺にも一匹くれるって言うから喜んで出掛けた

そして鯛焼きをもって戻る俺は朽木ルキアさんに出会った

「おお、恋次のとこの地獄蝶の番の者だな。
どうした?使いか?」

朽ち木さんから声をかけてもらえたのは嬉しい
俺のことを覚えてくれたのはもっと嬉しい

でもそのあと朽木さんは
鯛焼きを見つけると恋次さんのお使いだとすぐに見抜き、
悪戯を思いついた子どものように嬉々としてその場で一匹取りあげて噛じりついてしまっていた

俺が止めるのも構わずに頭からがぶり、とだ
恋次には私に奪われたとありのまま伝えるがよい、とかなんとか嬉しそうに

その表情があまりにも可愛らしくてろくに制止もできなかったわけだけど
その辺は恋次さんには内緒だ



そう言われた通り、そのままを告げると俺は恐る恐る恋次さんを見上げた

「なんだと〜!?」

びくっ!!
大声を出すから俺は思わず固く目を閉じた
でもなにも起こらない

目を開けると恋次さんがわなわなしている
両手の指が意味不明にうごめいている

俺があとで分けてやるつもりだったのにあいつっ…、とか
くそっ、とか
鳶に油揚げを、とかぶつぶつ呟いている

見つめる俺と一瞬目が合うと、きっと怖い顔をしたけど
すぐに脱力して
お前も災難だったな、と言ってくれた


そしてそのままため息をついて脱力した恋次さんといっしょに並んで鯛焼きを食べた

鯛焼きはやっぱり温かいうちに食べるのが美味しい
恋次さんも鯛焼きを口にすると元に戻った
俺が煎れた濃いめのお茶に
鯛焼きにはやっぱりこれだよな、と喜んでくれた


俺はこんな恋次さんがいちばん好きだ

怒るときも朽木隊長みたいに冷たく怒るよりも
俺が白状したあとみたいに赤くなったり青くなったりして大声を出す方が恋次さんらしいと思う

いまは満足そうに鯛焼きに喜んでいる
恋次さんは怒ったり喜んだり忙しい方が楽しくていい


それに恋次さんは優しいんだ
鯛焼きは恋次さんと俺にくれるぶんだけじゃなかった、四つ買えた
恋次さんと俺と、さっき漏らしたように朽木さんのぶんだったんだ

あとで届けるつもりで
だからあんなに怒ったんだと思う
はじめからあげるつもりでも奪われたらやっぱり腹が立つ

朽木さんは恋次さんがそのつもりでいたことも
自分に盗られたと知って怒ることも
みんなわかっていてあんな悪戯をしたんだろうか?
だからあんなに楽しそうだったのかな?

そう考えると朽木さんの行動に納得がいく
けど幼なじみに女の子がいるって大変なことなのかもしれない
俺があんなふうにいつも読まれているとしたら泣きたくなる

俺はとなりで二匹目の鯛焼きを嬉しそうに頬張りだした恋次さんに
ほんのちょっぴり同情したんだった



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