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□理吉の地獄蝶飼育日記
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理吉の地獄蝶飼育日記@



今日は朝から地獄蝶たちに仕事があったようだ
俺が見に行ったときには数羽の地獄蝶たちが既に出払っていた

たいていは阿散井副隊長が地獄蝶を取りに来て、伝令をのせて放してやる
するとそれぞれの宛先に伝え終わったものから飼育室に帰ってくる仕組みだ

俺は飼育かごを掃除したり水を換えたり、
健康状況を確かめたりする
ときには迷子を捜しにも行く


ところで、どうもここしばらく阿散井副隊長の利用が急に増えた
いつもは朽木隊長に言われて取りに来ている様子なのに、最近は阿散井副隊長の用事みたいだ

べつに地獄蝶たちが労働過剰になっているわけでもないから構わないのだけど
地獄蝶を取りに来る阿散井副隊長がぶつぶつとなにかを言いながら歩いてくる

この前は、しかたねぇじゃねえかって言いながら頭をがりがりと掻いていたし
昨日は卯の花隊長おっかねぇなぁ、としょげていた

恋次さんになにがあったんだろうか
俺はなんだか気になっていた


俺が外の洗い場で飼育かごの底板を洗って飼育室に戻ろうとしたとき、
廊下の先に飼育室のあたりを歩く恋次さんの後ろ姿を見つけた

俺は調度よかったと思って恋次さんに声をかけようとした
けど、声も出せずに固まった

恋次さんも固まったからだ
廊下の反対側から歩いていらした朽木隊長が恋次さんを、
いや、阿散井副隊長を呼んだからだ

そして二人でなぜか地獄蝶の飼育室に入っていってしまわれた

俺はこの後、どうすればいいんだろう…


とりあえず俺は飼育室の前まで来てみた
でも入っていけるわけもない
持っている飼育かごの底板も置きたい

だから迷ったけど飼育室の窓の下までまわって、とりあえず底板を置くことにした
ここなら後で窓から入れれば楽ちんだ

だけど甘かった
このあと俺は護挺十三隊の重大な秘密を知ることになるなんて少しも考えちゃいなかったんだ



「恋次。そなたこの始末をどうつける気だ。」

低く苛立った朽木隊長の声が聞こえてくる

しまった、ここは窓が常に全開だった
帰ってくる地獄蝶のためにいつでも開いているのだ
当たり前すぎてなんとも思わなかった
俺はしゃがんだまま動けなくなる

「すみません。隊長。」

阿散井副隊長が元気なく謝る

「そなたとて初めてのことでもなかろう。
だが卯の花隊長に苦情をもらうのは困る。断じて困る。
今度のことはそなたがすべて自分で処理するがよい。」

「そんなっ!!隊長…」

なんだかやばい
話の意味は分からないけどすごくやばい気がする
へんな汗まで出てきた、その時だった

「所詮その程度だと身の程を弁えるがよい。
護挺の建物を壊しただけでなく、いらぬ怪我人まで出したそなたの卍解など卍解のうちには入らぬ。」

俺はすべてを理解した
最近の地獄蝶は恋次さんが壊したり怪我をさせたことの連絡に使われていたんだと

でも卍解って…
卍解と朽木隊長は言った
卍解を知らない死神はいない
けれどそれは護挺の隊長だけが到達する斬魄刀の最終形態だ
副隊長の恋次さんが卍解するはずがなかった

俺が焦っているうちにいつの間にか隊長も副隊長もいなくなっていた


あれから俺は考えている
朽木隊長が言うことは絶対だ
恋次さんは卍解できちゃったんだ、きっと
それが本当なら隊をあげてお祝い会をしたいところだ

でも朽木隊長も恋次さんも飼育室でこそこそと話したりして、秘密にしてるみたいだった

隊長が三人も足りない今だから
卍解ができることが知られたら恋次さんは隊長になって六番隊からいなくなってしまうかもしれない

隊長と恋次さんはそれが嫌だから秘密にしてるんだと俺は思う
朽木隊長は怖いけど本当は優しい人なんだ
六番隊は最高だ
俺は六番隊に入って本当によかったと思う

だから俺もこの秘密を守ると決めたんだ
俺が知ってしまったことも決して誰にも言わないと、
心の中で朽木隊長と阿散井副隊長に固く、固く誓ったんだ



それから阿散井副隊長の地獄蝶の利用量も元に戻っていった

けど、俺にはまだひとつだけ気になることがある
恋次さんが自分で処理しろと言われた壊した建物や怪我をさせた人のことだ
あれはどうなったんだろう?

数日前、給料日が過ぎたばかりなのに腹をさすりながらとぼとぼ歩く恋次さんを見掛けてしまっていた

気になったけど聞くわけにもいかない
俺は誓いを守れる男だ

だから今日も目の前で羽を休めている地獄蝶に
お前、行って聞いてこいよ、とだけ呟いている



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