book2

□浮竹+卯の花
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浮竹+卯の花



「浮竹隊長。お加減はいかかですか?」

にこやかに問われる
だが一連の騒ぎ以来の無理がたたって、このところ体調が思わしくない

俺の体調が悪いと卯の花隊長の機嫌も悪くなる

卯の花隊長に言わせれば、俺の体は俺がうまく付き合いさえすればそうそう寝込まずに暮らせるはずだそうだ
もう数百年も付き合っているくせにどうして加減を上手くできないのか
体調がよくないのは俺のせいなので俺が怒られるのも仕方ない、
ということらしい

言われていることはわかるが俺だって隊長だ
こんな時に無理をせずにいったいいつ無理をするというのか

そうは思うのだが昔から診てもらっている卯の花隊長には口答えもままならない


「まずまずです。」

と目の前の患者は青い顔で笑って見せた

体のことで私に嘘は通じないと何百年経てば理解するのだろう
この白髪をした若者は

いや、もう若者ではなかったか
統学院に通うころから診ていたせいか、そのころの面影が消えない
その若者はいまよりも病状が重いにもかかわらず、いまよりもなお活動的だった

あるとき生死の境をさまよい、かろうじて命をつないだが
代わりに黒髪が白髪へと変わってしまっていた

目覚めた若者は狼狽した両親に
これなら家族がたくさんいる家の中でも私をすぐに見つけられますね、と笑って見せた

そんな優しさはいまも変わっていないようだ
彼は隊士たちにとても好かれる隊長になった


にこやかな顔のまま無言の卯の花隊長が怖い
体調がよくないときはなにをどう言っても結局は怒られるのだが毎度あがかずにはいられない
もはや習慣のようなものだった

思えば俺は病弱と言われながらも同年代の死神には享楽の他に健在な者をみつけることができないほどの長生きをしている

死神は席次が下の者ほど死傷する率が高いから隊長ふたりが残るのは順当と言えるのだが
それにしても隊長としても最早、最古参の部類に入ってきた

そう言えば目の前の卯の花隊長はどうなのだろう
昔をともにした友人などは今もいるのだろうか

俺でさえも一人しかいないのだから卯の花隊長では難しいだろう
そうだとしたらずいぶんと寂しい気がする

女性に年齢を聞くようなものなのでこれまで確かめたことはなかったが
目の前のこの人は友を見送りつづけて
そうして独り残っているのだろうか


「仕方がないですね。
いつものお薬をお出ししますから
三席の方たちの言いつけはしっかり守ってくださいね。」

久しぶりにこちらから折れた
前は浮竹隊長が新任隊長のころに無茶をしたときだからもう何百年前だろう

すっかり大人の顔をした馴染みの患者が今回戦場で見せた顔は
新任隊長のころとも統学院の学生のころとも変わっていない血気盛んな顔だったのだ

医者として患者には決して言えないが、懐かしい友に会ったような気がした
だから今回はほんの少し手加減して差し上げよう

そしてこれも隊長として口にすることはできないが、目の前の病人は私の数少ない昔馴染みなのだ
瀞霊廷の内にそう呼べる者は総隊長を除けばこの方とあと一人だけだ
可愛く思わないはずがない


「…は、はい。」

卯の花隊長に叱られなかった
これはいったいどうしたことだろう?
俺はいよいよ死期が近いのか?
いや、まさか卯の花隊長が?
いやいや、卯の花隊長が総隊長より先に逝くことはないだろう
だが…

なんだか心配になってきた
目の前の佳人が急に儚く霞んで見えてきた気がする


「卯の花隊長。逝かないで…」

目の前の患者がますます顔を青くしたかと思うと、ふらふらと伏してしまった
浮竹の居室の布団で半身を起こしていただけなので寝かすのは楽だ

ただの貧血だと確認する
そんなに悪そうには見えなかったのだが…

三席の方たちに十日は部屋から出すなと言っておこう

頑是無い子どものような台詞を口にした病人の白髪をひと撫でする
そうして静かに立ち上がると物音をたてないようにそっと雨乾堂を後にした



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