book2

□檜佐木+吉良
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檜佐木+吉良



気が付けば書類が見えにくい
顔を上げると夕焼けに変わろうとする日差しが雲に閉ざされるところだった

もうそんな時間か
そう思ったら急に肩が重くなった気がして
筆を置くと大きく伸びをした
ついでに立ち上がって肩を回す

東仙がいなくなって隊のすべてが檜佐木の肩に掛かってきていた
いままで隊長がいかに多くの隊務を裁いていたのかを改めて知らされる

東仙がいないだけで急に広くなったように感じる執務室を、独り見回した


コンコンー

扉が叩かれる

返事をすると三席に伴われた吉良が書類を持って現れた
いつもの青白い顔にやつれた風が加わってまるで幽鬼のようだ

「お茶を入れますから吉良副隊長も飲んでいってください。」

三席が気を使って言う

目の見えない東仙は大概のことは一度聞くと丸暗記してしまうが
毎年決まった書類の他はこの三席がすべて音読して聞かせていた

だから今の檜佐木の肩に掛かる隊務の重さを
檜佐木自身よりも理解しているのはこの男だ

檜佐木は年かさに見えるこの男に支えられ、休みは半ば強制的にとらされてここまでやってきた


目の前に座る後輩はどうだったのだろう
見る限り、ひとりで仕事もなにもかもを抱え込んでいた様子だ

吉良の用向きを片付けた三席は黙って執務室を出て行く

「お前んとこはどうだ?吉良。
ちゃんと飯食ってんのか?」

出されたお茶をすすりながら
ええ、まぁ、と肯定なような否定なような声が返ってくる

それも仕方ないだろう
いきなり隊長がいなくなってどうしていいのかわからないのは俺もおなじだ


「吉良、お前大丈夫か?」

「…檜佐木さん、隊長の机がきれいだったんです。」

「あの日以前の未処理の書類は一つもなくて、分類も整理も全部されてたんです。
いつも執務室からいなくなってしまう市丸隊長が…」

おなじだった
東仙の机の上も片づけられていた
だが東仙がそうするのはいつものことで
未処理の書類を貯めることもない

だから気にすることもなかったが
東仙は自分がいつ二度と戻らなくなっても困らないようにしてくれていたのだろうか

そして今度は市丸隊長もか


俺は市丸隊長が苦手だった
腹の読めない顔をして、そのくせ人を見透かしたようなことを言う
底意地の悪さと冷たい性分を隠そうともしない台詞を聞くのが嫌で
近づかないようにしていたほどだ

だが吉良は俺が東仙隊長を慕うように市丸隊長を信じて慕っていた
俺にはそれが理解できなかったが、いまの吉良が俺とおなじなのはよくわかる

まるで親に置き去りにされた子どもだ
本当は寄る辺なくて不安で仕方ない
吉良などは明らかに追っ手の足止めに使われたというのに
それを理解していてなお、市丸隊長を慕っていた


副隊長とはみんなこんな生き物だっただろうか

吉良の顔を見ながら副隊長の面々を思い浮かべてみた
二番隊の大前田さんと阿散井と、それから乱菊さんに思い当たる

二番隊は隠密機動でもあるから他の隊より組織が密で多忙だ、隊長がいなくとも滞らないだろう
万一隊務が混乱したら大前田さんは砕蜂隊長に殺される気がするし…

阿散井はあれはがさつながら人を引っ張っていく力がある
きっと無茶苦茶でも立ち止まらないだろう

そして乱菊さんもそつなく隊を動かしていくだろうと思えた
幼い姿の日番谷隊長の力量が足りないのでは決してない
乱菊さんが副隊長以上なのだ
我を通すように見えて本当は周りをよく見ている
飲み会で俺たち副隊長をうまいこと手のひらで転がしてみせるように隊も自在に動かすだろう
そうでなければ史上最年少の隊長とは組まされなかっただろう


そこまで考えると憔悴している吉良が急に気の毒に思えてくる
自分もまるで同じなので敢えて考えないようにしていたが
どうみても俺たちは惨めだった

あれだけ明瞭に決別を宣言されたにもかかわらず、
道をたがうだけでなく対決を言い渡されたにも関わらず
その隊長たちから隊務の心配をされている

「くそっ」

思わず口からこぼれた

「檜佐木さん?」

俯いていた吉良が心配そうに見上げてくる

「これを片づけたら飲みに行くぞ、吉良。いいな。」

返事も聞かずに仕事終いの用意を始める
訳がわからず慌てている吉良をせき立てた


また扉が叩かれて三席が顔を出した

「副隊長、われわれは今日は早終いにします。
吉良副隊長にもそうお伝えください。」

吉良を目の前にしてそう言う
どうやら俺の後押しをしてくれているらしい
本当に気のきく男だ
心の中で三席に礼を言う

今日は目一杯、吉良の市丸隊長の話を聞いてやろう
こいつは全部吐き出さないとダメだ
.

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