book2

□乱菊+京楽
1ページ/2ページ

乱菊+京楽



仕切で区切られた奥の席にいた乱菊を見つけて声をかけてきたのは京楽だった

ここはこじんまりとしながらも格式のある店で
隊長格以下の隊士は寄りつかない

だから乱菊は一人で静かに飲みたいときにだけ足を運んでいた店だった

「京楽隊長、よくここがわかりましたね」

「うん。ここに来れば乱菊ちゃんに会える気がしてね」

茶目っ気をだして片目をつぶってみせた京楽に
今夜は一人で飲みたいのだと断ろうとした出鼻を挫かれる

京楽は断りもなしに空いていた向かいの席に着く

待ち合わせすらないことを知っているかのような態度に毒気を抜かれた乱菊は
黙って京楽の杯に自分の徳利から酒をつぐ


いつものこの人はこんなことはしない
ひとりで居たいときには声をかけないでいてくれる人だ

だから今夜の自分はそうできないほどおぼつかなく見えているのだろうかと苦く思う


杯を舐めた京楽が口を開く

「乱菊ちゃん、少しはなにかわかった?」

「えっ?」

なぜ京楽が知っているのか
驚いて手が止まり相手を見る

京楽はふっと小さく笑うと

「なに、最近乱菊ちゃんがしきりに現世に行きたがるって日番谷くんがこぼすから気になってね。
きっと僕でも少しは役に立てるかもしれないと思ってさ」

そう言いながらこちらを見つめてくる京楽隊長の目は
さすがに洞察力に長けると評判の隊長のものだった

「京楽隊長…」


見通されていると思うと気まずさに思わず視線をさまよわせそうになりながらも
助けが得られそうな安堵感で挫けそうにもなる

それと同時に思ってもいた
入隊してすぐの小さなギンはすでにこの人をも相手にして周囲を欺いてきたのだと
それも百年以上もだ

自分とのあまりの落差に絶望すら感じる


そんな乱菊の曇った表情を払うかのように京楽は続ける

「仮面の軍勢って名乗ってる平子くんに会いたいなら僕から連絡付けられるかもしれないよ?」

「本当ですか!?」

ぱっと顔を上げた乱菊が食いつく

その様子に笑んだ京楽だが、すぐに笑みを無くして
僕の副官だったリサちゃんもそこにいるからね、と小さく続けた

「リサちゃんが口添えしてくれたら平子くんも会ってくれるかもしれないよ」

そう言う京楽の顔には笑みが戻っていたが
それは寂しそうなものに変わっていた


乱菊はこれまでに浦原商店を訪ねて
浦原と塚菱に市丸ギンについて知っていることをなんでもいいから教えてほしいと頼み込んでいた
だが得られた情報はわずかで役に立ちそうなものはなかった

四楓院夜一については所用で出かけているから数日戻らないと聞かされたきりだ

平子に会わせてほしいと頼んでも
乱菊の意向は伝えるがそれ以上はできないと言われ、
後日会いたくないとの返事をもらっている


自分でも仕方がないと思う
浦原も塚菱も夜一も藍染の陰謀のためにその地位を奪われ、ソウルソサエティを追われた

平子たちに至っては藍染によって無理矢理に死神から虚へと踏み出したものへと変えられた

それでさえ浦原と塚菱の助けがあったからそこに留まれたのであって
彼らがいなければ完全な虚と化していたはずだった

それらにギンは荷担していたのだ
彼らにしてみればギンは仇敵に他ならない

そのギンの幼なじみだと名乗る自分が今ごろ現れて
ギンについて教えてほしいと言ってきたところで、気持ちよく協力できるはずもない

さらに平子はギンにひよりを斬られている
卯の花隊長が戻らなければ助からなかった命だ

護挺にいたときも格別に親しい間柄だったと聞く

仮面の軍勢は8人いるがあとにもさきにもこの8人きりの集団だ
彼らのような特異な存在は自然に現れるものではない

とすれば現世に身を隠していたこの百年がなくとも
彼らの結束は護挺の死神たちのそれを凌ぐものに育っているだろう

そんな仲間を斬ったギンのことを聞かせてほしいというのは
喧嘩を売っているに等しい

逆に斬られるかも知れないと乱菊は思う
そうでなくとも彼らは強い
もともとが隊長と副隊長なのに加えて虚の力をもあわせ持っているのだ
乱菊とおなじ副隊長と戦っても勝てはしないだろう

だがそれでも諦めるつもりは毛頭なかった

平子にはどうしても会って話を聞かなければならいが
会う手段が見つからずに焦り、進展のなさに弱気になっていたのだ


京楽の提案は願ってもない話だがリサとて仮面の軍勢のひとりだ
いくら元隊長の京楽の頼みであっても快く頼まれてくれるはずがない

乱菊がそう言うと京楽は、やっぱり僕だけ理由を言わないのは不公平だよね
と口の端だけで笑みをつくってみせた
.

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ