book2

□平子+仔ギン
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平子+仔ギン



「氷でも食べて帰ろかぁ」

氷の旗をみつけて隣を歩くチビに声をかけた

「なんや平子隊長、サボりたなったん?」

銀髪のチビが生意気な口を叩きながら見上げてくる

アホか、くそ暑い最中にお供についてきた三席を労ってやろうっちゅう
隊長の優しさがわからんようなガキには奢ったらんわ

無言で睨んでやると
あからさまに慌てたふうを装って返された

「嘘やん、平子隊長。
ボクなんや冷たいもん欲しなったわぁ。
どこぞで休ませてもらえへんやろかぁ」

わかっとればええねん
初めからそない言うたらええねん

「ほな、一休みや」


軒先に簾を立てかけて日差しを遮った店の中は
風通しがいいぶん、外よりは心地よい

自分には宇治金時を選んで、ガキはどうせイチゴやろう、と
そう言おうとして思いとどまる

このガキは惣右介にでも仕込まれたんかガキらしゅうない渋好みやからな、
抹茶か金時って言うやろか、しゃあないな

「お前も宇治金時にするか?」

聞けば

「ボク、イチゴがええですわ」

と答えるから思わず目が丸くなる
このガキがガキらしいもん選びよったわ

せやな、なんぼこいつでもガキらしいとこの一つくらいはないとな


真子が思ったことをそのまま顔に出すので
真子の考えていることはだだ漏れだったがもちろんギンは黙っていた

それは秘密だけなら売るほど抱えているギンの最重要機密に関わることだからだ

平たく言えば乱菊絡みだが
乱菊のことだけは死んでも口を割る気はない
乱菊のためにも自分のためにもだ

イチゴのかき氷は昔、いっしょに暮らしていたころの乱菊が言ったのだ

初夏のある日、日当たりのよい草原で野生のイチゴを摘んできた乱菊が

「ねぇ、ギン。
もし冬の氷をとっておけたら、このイチゴといっしょに食べたら美味しそうだと思わない?」

と小さなイチゴに目を輝かせながら言ったのだ

流魂街のはずれのはずれで子どもふたり、到底叶えられる望みではなかったが
ギンは乱菊が望むならなんでも叶えたいと思っていた

氷の品書きにイチゴとあるのを見てとっさに乱菊を想ったのだ


イチゴのかき氷は昔のギンの予想に反して美味しかった
やはりそのままのイチゴではなくて甘く煮詰めたものでないといけないようだが

乱菊はもうそのことを知っているだろうか


ギンがうわの空のあいだ、真子もまたぼんやりしていた

ひよりのやつも連れてきてやったらどないな顔したやろか

あいつはあれでいて可愛らしもんが好きやからなぁ
かき氷やったらやっぱりイチゴやろなぁ

買っていったら喜ぶやろなぁ
せやけど氷やから溶けてまうしなぁ

あいついっつも怒っとるけどたまに笑うと可愛いしなぁ


そんな真子にギンが気がつく

「平子隊長、鼻の下伸びてんで。
なんや真っ昼間からヘンなこと考えよったらあきまへんえ」

自分の考えていたことなどまるっきり棚に上げて上司を窘める

「なっ、なに言うてんねん、お前!!
ガキのくせしてヘンなことってなんや!!」

いくら強くていけずな大人でも子どもに図星を指されると一瞬赤くなるらしい

ギンは心の中の帳面に書き留めておく

「まぁた十二番隊の副隊長さんのことですやろ。
いつもようふたりでじゃれてはりますもんなぁ」

ニヤニヤとギンがつつく

だが真子も大阪弁は話しても認識を操る卍解を擁した、いけず系隊長の筆頭だ

ガキのちょっかいに素直にのるほどウブではない

「なんやお前、初恋もまだやないやろな?
男は毛が生えそろう前に初恋のひとつやふたつ、
経験しとらんとええ男になれへんでぇ」

ニヤニヤし返して言う

「ほんならええおっさんが初恋もまだのウブな女の子たらし込むんもええんですかぁ?
平子隊長、幼女趣味は倫理上よろしゅうありまへんえ」

ギンがわざとらしく顔をしかめた

「おまっ、それどこで覚えるんや?」

一抹の不安を覚えて問うと
ギンは得たりとニコニコ顔だ

「藍染副隊長から聞いたんや。
幼女趣味は現世でロリコン言うんやろ?
ロリコンは変態なんやってぇ。
平子隊長は変態やな」

嬉しそうなギンを見て一抹の不安が嫌な予感に変わる


あかん、五番隊はいけず養成所か

このまま惣右介に隊士教育任せといたら五番隊はいけずの巣窟になるんちゃうか?

惣右介がなにかしでかす前に五番隊がいけず隊になってまう

意外にも女性隊士の多いうちの隊がそないに呼ばれたら
セクハラで謀反起こされんとちゃうやろか


本気なのか下ネタなのかわからない真子の横滑りした思考はまたもや顔に出していたので
イチゴもブルーハワイも食べとらんのに赤くなったり青くなったり楽しい隊長さんやなぁ、と思いながら
ギンは器に最後に残ったイチゴ色の砂糖水を名残惜しげに腹に収めた



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