book

□ギン
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正直言って勝算は良くて五分五分
悪ければそれ以下やと思っとった


藍染隊長はボクが狙っとると気づいているんやないかと感じる時がある

それが正しいんやとしたら
自分を狙う腹心の部下を身近に置いてなお
自分が後れをとることはないっちゅう自信があるいうことや

そないなればボクには万に一つの勝ち目も難しい
せやけど引き返すことも途中で止めることもようできひん

その場合のボクには
藍染隊長が自分が死ぬいうことを目の前にして初めて
自信は過信やったって知るようなやり方をとるしか勝機はあらへんかった

そのためにはほんまの力は隠しておくこと
油断を誘い藍染隊長の弱点を知ること
ほんでもっとも無防備な瞬間を狙うことのすべてを満たさなければならへんのや

それはどれかひとつだけでも難しい条件やった


藍染隊長から鏡花水月の刀身に触れた者は完全催眠にかからないと明かされたとき、ボクは狂喜した

ほんまに飛び上がりたいほど嬉しくて
それを隠しておくのに苦労したわ

せやけどそれだけでは藍染隊長には勝てへん
ボクが卍解の本当の能力を隠しているように
藍染隊長かて秘密にしとる力があるかもしれへん

朽木ルキアに隠されていた崩玉を手に入れた今、それは確実になったはずや

そないしはるともう残された勝機は藍染隊長が崩玉を使う時だけやろう
せやけど虚夜宮でも崩玉は藍染隊長しか近づけんようにされとる
きっと護挺十三隊との戦闘のどさくさの中でしかその機会はないやろう

まったく用心深いことや

いまの時点で藍染隊長の強さをいちばんよく知っとるんはボクやろう
けどボクかて藍染隊長の本当の強さを見とるわけやない

油断をついて不意打ちを仕掛けたうえで
先手必勝に畳みかけんと勝てへんやろう

ここまですべての条件を整えてはじめて五分五分の勝算や
ここにくるまでに百年が必要やった


万が一、討ちもらしたときに保険になるんは黒崎一護しかおらん
けどそれかてまるっきり不確定や
可能性があるかないかで言うたらあるっちゅうだけのことや

まったく分の悪い勝負や
せやけどボクにとってはこれは決して負けられへん戦いやった



ボクはこのときのために死神になった
そのために乱菊を置いてきた

藍染隊長に近づいて仲間になるふりをしながら
陰では必死で力をつけた

追いかけてきて死神になってくれた乱菊に知らん顔してまでや

乱菊が近くにおってくれとると思うだけで
藍染隊長の下で通常の任務をこなして、陰では虚化の実験を手伝うんも
あんじょうこなせる力が湧いてきた

やけどその反面、乱菊が特別なことを藍染隊長に知られたら一巻の終わりやった

せやから乱菊がどれほど大事かっちゅうことを
そのまま乱菊との距離に置き換えて、ボクは乱菊から遠く遠く離れとらんとあかんかった

乱菊が死神でおってくれることはなによりも嬉しいと同時に
命よりも大事なもんを危険に晒すことでもあったんや

これを打開するには藍染隊長を殺すしかあらへん
藍染隊長を殺して崩玉から乱菊の魂ぱくを取り戻すんや

そのためにボクは今ここにおる



待ちわびとった瞬間はもうすぐや

乱菊、追いかけてきてくれておおきに

あないな体で起きるのも辛かったやろうに
もう無茶したらあかんで

白伏なんぞ使うてごめんな

信じてたのに裏切ったってイヅルのせいにして
意地っ張りなとこはほんまによう昔と変わっとらんのやね

けど、ボクも昔と変わらへん
乱菊の顔が見れただけでどれほど嬉しかったか
乱菊に会うただけでどれほど戦う力が湧いてくるか

きっと乱菊には一生わからへん

ほんでボクかて一生わからへんのやろう
もう安全なあの場所から動けへんはずの乱菊が
こないなとこまで来てくれるやなんて夢にも思わへんかったんやさかい

乱菊、ほんまにおおきに

あそこで会えてほんまに嬉しかったんや
毎度大事なとこで乱菊に助けてもろてきた
そないなことも乱菊は知らんのやな

おおきにもごめんも伝えたいのに伝えられんできたことがほんまは仰山あるんや
続きは戻ってからや

あともう少しや
あともう少しだけ待っといてな、乱菊













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時間軸は前半は虚夜宮で、後半が白伏の直後で。

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