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□織姫
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黒崎くんが目覚めてから一ヶ月がたった
黒崎くんは一度もソウルソサエティのことを話さない

戦いのことは浦原さんから聞いたし
たつきちゃんや啓吾くん、水色くん、千鶴ちゃんには
浦原さんと石田くんと茶渡くんと私で事情を説明した

そしてみんなは黒崎くんが目覚めたらいままで通りに接しようと
誰が言い出すわけでもなくなんとなくそんな空気に落ち着いていた
だから黒崎くんがなにも言わないなら私からも話題にすることはなかった

それでも朽木さんがいた席をぼんやりと見つめている黒崎くんを見かけたときには
切なくて思わずいらないことを言いそうになって慌てて堪えたんだ


そう、ときどき黒崎くんは本人にはわからないだろうけど
朽木さんの霊圧を微かにまとっていることがある

きっと朽木さんも黒崎くんが心配でこっそり様子を見に来てるんだと思う
でも私や茶渡くんや石田くんにも姿を見せてはくれない

もし朽木さんに会えたら嬉しくてどうしても黒崎くんに話したくなるし、でも話せないし
黒崎くんに秘密ができちゃうのもいやだ
だからやっぱりしばらくは朽木さんには会えない方がいいんだと思う
朽木さんもそう思ってるから私たちに会わないようにしてるんだと思うし


だけど、これは茶渡くんと石田くんと話し合ったんだけど
黒崎くんはきっとまた死神のみんなと関わる日が来る
3人ともなぜかそのことは理由もないのに疑いようもなく確信していた

だからその日まで力を失った黒崎くんを陰から見守ること
必要があれば助けること
そしてまた黒崎くんの足手まといにならないように、その日までにできるだけ力をつけること
その三つを互いに決めていた


私は黒崎くんに何度も助けられた

最初は虚になってしまったお兄ちゃんと襲われた私のふたりともを救ってくれた
ウルキオラさんとヤミーさんが現世に来たときも駆けつけてくれた
私が虚圏に行かなきゃならなくなったときも私を信じて助けに来てくれた
ウルキオラさんと戦ったときも助けを求めた私のために立ち上がってくれた

私は黒崎くんに助けてもらってばっかりだ
虚圏でだって自分の力でなんとかしようって思ったのに
結局は黒崎くんに頼ってあんなことになってしまった


私はいまのままじゃ黒崎くんを守れない
守ったり防いだりする力じゃなくて攻撃する力をつけなきゃならない

いつも当たり前のように黒崎くんのとなりで戦う朽木さんのように
黒崎くんの前に立って戦ったネルちゃんのように

石田くんや浦原さんに言われたように私がただ戦いに向いていないだけじゃなくて
私には戦う覚悟が足りないんだ
四番隊の卯の花隊長さんは治療の専門家だけど刀を抜いてもすごく強いんだって花太郎くんが言ってたもの

私は守りたいものを守るために攻撃してくる相手を傷つける覚悟を持たなきゃならない


わかってる、わかってるけど、本当は

本当はなぜ戦って傷つけあわなきゃいけないのか私にはわからなかった


はじめに戦った死神さんたちだって話してみればいい人たちだし、いっしょに戦うことができた

破面の人たちだって最初は怖かったけど話ができる人もいたし、理解しようとしてくれた人だっていた

そうなれるなら最初から戦ったりしないで話し合えればいいのにと本当は思ってる


だって、死神のみんなは強いし楽しい人も優しい人もいるけどなんだか悲しい

死んでしまってまで現世の私たちを虚から守るために命を懸けてくれている
お兄ちゃんのように迷ってしまった霊を助けてくれるんだから感謝してる
いつか私もお世話になるかもしれないし

でも、私たち以外の現世の人たちはそのことに気づいてもいない

死神さんたちはいつまでも生きられるから
寿命を終えてまた生まれてっていう命の輪の流れから外れてるんだって

そうして外から命の輪を見守っている
いつか死んでその輪に加わる日まで

誰か大事な人を見送って、また誰かを見送って、いつか自分の番がくるまで
それまでずっと戦い続けるのは寂しくはないのかな


そして虚はもっと悲しく思えた
思いを残して死んで虚になって
胸にあいた穴を埋めるために身近な人を襲う

そうして力をつけて虚同士で食い合って強くなっていく
藍染さんのせいで破面になった人たちも、もとは虚の集まりから生まれたのだそうだ

あの暗い虚圏で死神さんたちとおなじだけの長い時間を争って強くなるためだけに使うのかな

虚夜宮で会ったエスパーダの人たちは藍染さんのおかげで力を得たからっていうのもあるけど
なんだかみんな藍染さんのために戦うっていう目的があって楽しそうに見えた

グリムジョーさんは黒崎くんと戦いたがってたし、
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