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□仔ギン
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あの日見た黒い着物の男がただ者やないことはすぐにわかった
黒い着物は死神しか着ひん
あいつらはみんな死神やった
その中でもあの男だけは特別やった

あの男たちを見たとき、乱菊の身に起こったことを理解した
乱菊はなにも覚えてへん

えげつない目に遭わされたからか他に理由があるのかはわからへん
けど、あの男だけは少しの油断もならんことはわかっとった

次にあいつらを見たとき、あの男はいなかった
皆殺しにしたかったのはやまやまやけどあの男に勘付かれたらお終いや

乱菊を見つけたときに見た男たちだけを誰にも知られへんように始末した
そないにすることは簡単やった


乱菊の盗られたもんを取り返すためにあの男を殺すと決めたことに迷いはあらへんかった

けど問題は今のまんまではあの男に到底かなわへんことや
あの男を殺すためにはもっと力が必要やった
それに近くで油断を待つ必要がある

そのためには死神になってあの男に近づくしかあらへんかった

つらかったのは乱菊にほんまのことは言えへんことや
言えへんのに乱菊の側を離れることを伝えなあかん
乱菊はきっと泣くやろう
泣いてわけを聞くまで納得しいひん
せやけど言えるはずあらへん


乱菊が盗られたもんは
きっと霊力とおなじもんや
ほんでそれはボクらの魂と同一のもんや

それを削り取られた乱菊がこの先どないなってしまうのかボクにはわからへん
それやのにそないなこと乱菊に言えるはずあらへん

それにあの男のことを話したら乱菊は絶対に止めるに決まっとる
自分の魂やらなんやらどないやてええて言い出すかもしれへん

そないなるんは絶対にいややった
そのせいで乱菊が死んでしもたら耐えられへん


せやから夜中に乱菊が寝とるまに別れも言わんと置き去りにしたんや

朝目が覚めてボクがおらんことを知った乱菊が泣くと思たら堪らんかった
せやけど、わけも話さんと別れを告げて泣かせるんはもっといややった


置き去りになんかして恨まれるやろうと思った
けど恨んでくれてもかまへん
乱菊は怒っとるときの方が力を発揮でけるさかいに

いまの乱菊やったらひとりかて十分にやっていけるて思うけど
ボクがいつかて側におって助けてやることはようでけへんのやさかい


いつかあの男を殺して
乱菊のもとに盗られたもんを持って戻ったら
そないしたら乱菊が笑ってくれたらええ
きっと怒るやろうけどそれでも笑ってくれたらええ
ほんでまた乱菊と一緒に暮らせたらええな

すぐには戻れへんと思うけど乱菊は流魂街で待っといて
それまでの辛抱や



そない思てたんやけど
あの日乱菊を見るまでは

乱菊は真央霊術院の入学式の日にそこにおったんや


雪が降っとったあの夜、乱菊を置き去りにしたボクはそのまんま精霊廷へと向かった

死神の学校に入るためになにが要るのかわからへんかったさかい、まずそれを確かめる必要があった
それを考えるとボクの足かて流魂街の果てからこの精霊廷まで余裕があったとは言えへん

それを乱菊は追ってきとったんや
乱菊の足ではきつかったやろう
それに乱菊はあないにきれいな女の子なんやさかい、
ボクよりよほど苦労したにちがわへん

それを入学試験まで通って
真央霊術院の制服を着てそこに立っとった


乱菊は遠目にボクを見つけるとボクを睨んだ
そしてぷいと横を向いたんや

どれだけ嬉しかったかよう言われへん
どれだけ乱菊を抱きしめたかったかわからへん
そこが精霊廷でなければ泣いとった

ずっと会えへんと思てた乱菊がそこにおった
みんな投げ出してふたりで流魂街に戻りたい
それとおなじだけ
一刻も早く乱菊の奪われたもんを取り返したかった


だからこそ、よう後には引けへんかった
やり遂げるしかない
生易しい相手やおへん
はじめたからには少しの過ちも許されへん
せやなかったらボクだけやない、ここまで来てしもた乱菊までまとめて消されてまうやろう


ボクは乱菊を見てへんふりをした
ほんで大急ぎで真央霊術院を出て死神になる決意を新たにしたんや

目を逸らした途端に泣き出しそうな顔をした乱菊にはよう気付かへんかった












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市丸さんのはずが仔ギンになってしまった件。コレどこに置こうか…(汗)

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