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□乱菊
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夢か現か白伏で気を失っていたあいだに遠い日の影を見ていた


血の飛沫をうけたギンが
死神の漆黒の着物を羽織って帰ってきた
駆け寄ってどこに行っていたのかと問い質す私には答えずに
ただ、死に神になると言った

乱菊が泣かんでも済むようにしたる、とも言った

あの日いくら聞いてもギンはそれ以上は答えなかった


その後、ギンは自分が言ったとおりにしたし
私もギンについて真央霊術院の門をくぐったのだ

あのときのギンの言葉を思い出したのは今が初めてだった


酷く嫌な予感がした
自分が白伏で昏倒させられていたことといい、
腹が焼けつきそうな焦りに脂汗が浮かんだ
早く行かなければならない
もう本当に一時の猶予もない
でなければ永遠に失ってしまうと
なぜだか自分の勘に確信していた




冬空の合間を縫った日差しが窓から差し込んでいる
十番隊の執務室では今日も静かに仕事が片付いていく

隊長の日番谷の戦いで受けた傷も癒え、破壊された空座町も修復されて現世に戻された
ソウルソサエティも一見すると戦いの痕跡は見当たらなくなっている

だが乱菊の心はあの日に置いてきたままだった
仕事をサボることもなく軽口も少なくなったことにさえ自分では気づいていない

報告書の上では
ひとりソウルソサエティの空座町に駆けつけた乱菊が
藍染に斬り伏せられた市丸を確認した、とだけ記されてある


乱菊はあのとき思い出したギンの言葉が真実なのだと思うようになった

ギンは肝心なことはなにも口に出さなかったから他に考える糸口もないのだが

ギンは死神になる以前から藍染を知っていて、その企ても知っていた
だから死神になって藍染についた
私を守るために

思い上がりだろうか
だがそう思うより他なかった


だとしたら私は自分の命のためにいったいなにを失ったのだろう
ともに暮らしたころは自分のすべてだった相手
死神になってから距離を置かれ遠くから想うだけになった相手
片時も心から離れたことはない

だが今はついにどうやっても手が届かない相手になってしまった

なぜもっと確かめなかったのだろう、知ろうとしなかったのだろう

ギンがそれを望まなかった
昔からギンが頭からいけないと言うことは命の危険があることだった
だからそれに従ってきた

だがその結果がこれなら従う意味などなかった
ギンが消えて自分だけが生き残るのなら従う意味などなかったのだ

このままでは居れないと思う

せめて藍染の計画が明らかになったいまなら
ギンの足跡を辿ることも可能だろう
ギンがなにを考えてきたのか少しでも知りたい

当時の隊長格の浦原や四楓院夜一ならこれからは精霊廷でも会えるかもしれない
仮面の軍勢となった平子隊長も現世に行けば見つけられるかもしれない
藍染でさえ、ギンのことを聞けるときがくるかもしれない

このままなにもせずにはいられない

どうしてもっと早くにそうしなかったのか

たとえ藍染の鏡花水月の支配下で泳ぎ回ることになったとしても
人知れず始末されたとしても
悔いはしなかったというのに



書類に目を通す姿勢のままずっと宙を見つめていた乱菊を
日番谷が静かに見ていた

蒼いガラスのような瞳をしていた乱菊に
顔色は青白いままだがそれでも微かに生気が戻ったのを感じる
毎日気にして見ていたのだから日番谷にはわかる

きっとそのうち休みをくれと言い出すだろう
それならそれでもいいと日番谷は小さく安堵の息をもらした













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書くのが難しいぜ乱菊さん。ずっと書きたかった(笑)

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