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□七緒
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あの戦いで戦場に立たずに精霊廷にいた隊長格は私だけだった

あれから乱菊さんは元気そうに見せてはいるが元気がない
檜佐木さんもだ
理由は言うまでもない

日番谷隊長は体の傷も癒えて雛森さんが回復するのを待っている
駒村隊長はもう既に心にしまい終えたかのようにいつも通りに振る舞われる

今回傷つかずに済んだ者など誰もいない
享楽隊長ですら一人悲しげなお酒を飲まれていた夜があった

身体的な傷はいっさい受けていない私でさえ
矢胴丸副隊長のことを思うととても平静ではいられなかったのだから


護挺十三隊はその内部から敵を出したことで
身内同士で傷つけあい大事なものを失った
組織としても個人としても心身ともに疲弊した

精霊廷をまとめる四十六室から見れば
事態の元凶でありながら対処の実働部隊であった護挺十三隊への畏怖と憎悪と
それでも取り潰せない苛立ちに歯咬みしたくなる気持ちは如何ばかりだろう

なにしろ前の四十六室が藍染に皆殺しにされたのはついこのあいだのことだ

それに藍染はただ殺しただけでなく四十六室を語り偽りの指示を出して事態を攪乱した

精霊廷の最高機関である四十六室にとってもこれ以上の屈辱はないだろう

総隊長は事態のすべての責任を負わされながらも
護挺十三隊を四十六室から庇う盾となり、もっともつらい立場に立たれている



藍染はその願いを叶えた暁には護挺十三隊をどうしようと考えていたのだろう
今よりもさらにひどい状況を用意していたのだろうか

彼は崩玉とはその周囲のものの願いを読みとり
その願いを叶える力量をもつ者の後押しをするものだと語ったという

他者の魂ぱくを削り集めたという霊圧の固まりが
誰かの願いを叶えるなどとはずいぶんと皮肉のきいた冗談だ

それなら矢胴丸副隊長はどうなるのだ
そんなことのために虚化に追いやられ、挙げ句ソウルソサエティを追放される謂われなどどこにもない


だが腹立だしいことに、矢胴丸副隊長たちの地位が回復されることはまずないだろう
四十六室は過ちを認めない
それどころか死神でありながら虚でもある存在など四十六室は認めないだろう

死神は虚を魂葬して導くためにいるのに
その隊長格に虚の側に踏み出した者をおくなど
死神の意義が成り立たないとかそんなことを言い出すはずだ


結局ここでは犠牲になった者はその時点で終わりなのだ

浦原喜助と四楓院夜一が精霊廷と通じていることが便宜上、黙認されているのは
その知識と技術が比類ないものであることと
四楓院という特別な大貴族の元当主という地位、
それになにより虚化には至らず死神のままであることがもっとも大きい

彼らは希有な例だ
多くはそうではない

理不尽な犠牲を強いられても
それを穴埋めしてもらえることなど有り得ない

死神は力のあるものが前線にでて戦い、まえに出るものほど危険性は増す
それに比例して地位が上がる
唯一の例外は卍解に至った貴重な存在である隊長には副隊長をそのまえに置いてこれを守る
実にわかりやすい犠牲のシステムだ

そもそも輪廻の和から離れている死神など
魂ぱくの大きな流れの前には塵芥に等しいのだ


だがそれでも私たちは死神であることに誇りをもっている
誇りを持てなければ死神でなどいられない

魂のバランスをはかって世界の均衡を保っているのは我々だという自負があればこその死神なのだ


だから私も戦わなければならない
死神であり続けるために

享楽隊長のお気持ちはよくわかる
だが私は副隊長だ
副隊長は隊長を守るためにその前に立つものであって
後ろにいて守られるものではない

副隊長の地位についてみてはじめて矢胴丸副隊長のお気持ちがわかった

矢胴丸副隊長は恨みや後悔の気持ちは微塵もお持ちでないだろう
むしろあのとき現場に出たのが自分でよかったと思っていらっしゃるはずだ

享楽隊長はそれもわかっていらっしゃる
わかっていらしても私を前線に出せないのは後悔の念が疼くからだ
それと再び繰り返すことへの恐れ

つまりは私が強くなればいい
そうして無事に隊長のところへ戻ればいい
そう約束できるようになればいい

きっとすべての死神がそう思ってきたはずだ
いままでもこれからも
いや、死神だけでなく人間もみなおなじか

生者であっても死者であっても
みな明日のために今日を生きるしかないらしい

あるいはそれが誰にも崩せない世界の理なのかもしれない










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ドライに俯瞰してる役を七緒ちゃんに。スーパードライ希望がなぜかソフトドライに(笑)

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