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□夜一
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喜助のヤツは昔から構えたところのないヤツじゃったが
それは十二番隊隊長になってもおなじじゃった

それどころか技術開発局などというものをつくって
儂の下で席官でおるときより予算がとれると喜んでおったわ

まったくおもしろいヤツじゃ


子どもの頃から喜助の造りだす、なにやら変なものはいつもいままでにないものであったから
儂らの遊び道具には最高じゃったの

一度など喜助の造った、霊子で膨らませた儂の風船のようなものを身代わりにして
屋敷を抜け出して遊びに行ってな

帰ってみると儂の部屋が吹き飛んでおったな

どうやら儂が大人しく勉学にいそしんでいると思った屋敷の者がお茶をもってきたが
風船の儂が動くはずもあるまい

屋敷の者が驚いた拍子にこぼれた熱い茶が儂の風船にかかったようでの
熱に弱い風船は破裂して、襖も障子も吹き飛ばしたという訳よ


ふふ、このくらいで済んでいればよかったのかもしれんな

だが喜助の研究は時とともに進んでいたようじゃ

儂が四楓院の当主を継ぎ、二番隊の隊長になると儂も多忙になったが
いつも禁に触れるものをいじっとる喜助の方が儂に研究の中身を詳しく話さんようになっておった

喜助なりに儂の立場に気を使ったんじゃろう


それゆえあの頃、喜助が崩玉というものを創っていたことを知りもせなんだ
もちろんそれがどんなものかもな

当時は儂も喜助もすでに容姿の成長が止まっていたように記憶しておる

それはつまり死神としての力の延びしろがなくなったということじゃ
これ以上強くなることはない
あとはいかに巧みに技を用いるかということじゃ

そういう時期に来ておった


儂はそのころ、儂を慕い鍛錬に励む砕蜂が可愛くての
どんどん強くなる砕蜂を見るのが楽しかったんじゃ

力を極めた死神とはみながこのような心持ちになるのだろうと思っておった

だから喜助が死神の行き止まりの先を覗いてみようと思い立っていたとは気付きもせなんだ

喜助以外にも興味を持っている者がいたことにもなー



儂が事態はただ事ではないと気付いたのは魂ぱく消失事件が起こってからじゃ

喜助が霊子と魂ぱくがどうのと昔、言っていたからの
その喜助が一言も口を開かずに思い詰めた表情をしおった

それでその日の夜から喜助の監視を始めたという訳じゃ

言っておくが儂は喜助の仕業とは露ほども疑わなかったぞ
喜助は自分の分を弁えた男だったし、責任の意味もわかる男だったからの

でなくばいくら馴染みであっても儂が隊長に推すはずがないではないか


じゃが、事態の黒幕が藍染だとはなかなか掴めなかった
怪しい動きをする隊長格はおらなんだ
儂はすでに藍染の鏡花水月の支配下にあったということじゃ

事態が正確に分かったときには喜助と鉄斎は捕縛されておった
儂に相談もせんとは愚かなヤツらよ


隊長の座も四楓院の当主の座も捨て、
ヤツらを助けてともに現世に姿をくらますことには迷いはなかった

じゃが砕蜂が怒るじゃろうなと気にはなったがの


儂は先に、力の限界に至った死神は後進を育てることに励むものと、そう言ったが
それは儂の本心じゃがすべてではなかった

儂は心の隅でそれ以上の力を求めておった
己の限界に達したほどの死神ならば
力への執着がなくば到底そこまでもたどり着けはしまい

力の果てに先があるのならば見てみたいとは誰しも思ったであろう


じゃが、誰しもが求めるであろうものの糸口を得た喜助は
結局はそれに蓋をしたのじゃ

総隊長あたりはそれをもっとよく理解すべきじゃと儂は思うがの



現世に身を隠してもう百年になる
儂らにとってはたいした時間でもないが
ここ数年妙に霊力の高まった人間が現れおった
それも黒崎の家の者だ


そろそろ事が動きだすのかもしれんな


ふむ、楽しみなことじゃ













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夜一さんは後悔に縁のない人。時間軸的には「0」で。

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