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□寄り添えば、ほら
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広い部屋に大きな窓。

彼女の視界に広がるのは、真っ暗な闇に燈されたキャンドルライトのような煌めく光たち。


自分よりも小さくて幼さの残る表情の雛を、男は自らの膝の上に乗せて羽交い締めにした。


雛は擽ったそうに身を捩る。
男はその姿に気を良くしたのか、にんまり微笑むと彼女の顔を引き寄せ唇を奪った。


「ん…」


彼女もまた男の要求に笑顔で応える。













「雛、何故私がお前を手に入れたか…分かるか?」

「?」


彼の膝の上できょとんと目を丸くする雛。男は目を細め笑むと優しく頭を撫でてやった。



「私…分からないよ?」

「そうか。私にも最近まで分からなかった。お前のことは気の向くままに無理矢理連れて来たからな」

「そうだったかなぁ…」


男が昔話をしようとしたのを察したのか、雛はパッと目を逸らし膝から降りた。彼女にとって此処にやって来たときの出来事や経緯なんて、どうだっていいのだ。

だが男は、話を止めようとはしなかった。


「玩具にしようとしたのかもしれない」


雛は無表情で窓を見つめている。


「人間なんて所詮、遊びの道具なんだと思う。私は」

「飽きたら…捨てればいいんだもんね」


彼女は男に背を向けたまま口を開いた。

そして彼も落ち着いた声で、肯定した。



「その通り」

「っ…嫌だ、捨てないで!私メフィストが居ないと生きられない!他のもの全部いらないから、お父さんもお母さんも友達もみんなみんな…いらないから…だからメフィストの視界から、私…消さないで…」


男の言葉に目の色を変えた雛は感情を爆発させたように、一気に言葉を発した。座る彼の膝に泣きながら縋り付く様は、さっきまでの幼い表情をした雛とはまるで別人だ。関係を切られそうになった愛人のような、そんな姿。

泣きじゃくる雛の身体をそっと抱き上げた男は、自分の座っていたイスに彼女を降ろした。

男は床に片膝をつき雛の右手を自らの左手に乗せる。


「だがな」

彼の行動に、泣き止んだ雛は驚きの表情を浮かべている。


「私は人間のお前に、込み上げる愛おしさを感じる。ただの玩具の人間に…そんなものを感じるか?そんなことは有り得ないだろう?」

「愛おしさ…?」

「ああ。きっとこれは、」



左手に乗せた雛の手の甲に、優しく、優しく、割れ物を扱うように、そっと口付けを落とした。


ゆったりとした動作で雛と波長を合わせる男。目を合わせ、



「きっとこれは、私のどこかに眠る、純粋な愛だ」


そう囁いた。



「メフィストの…愛?…私に?私、玩具じゃ…無いの?」


彼の言葉に身体を震わせ、涙を流す雛。男は立ち上がり彼女の身体を抱き寄せた。静かに語りかける。


「そうだ、私はお前を愛しているんだ。玩具などすぐに飽きるただの人間とは違う。私は雛を失いたくない」


「っ…メフィスト、メフィストぉ」



わんわんと子供のように泣き喚く、雛の瞼にちゅとキスを落とした男は耳元で囁いた。




【寄り添えば、ほら】


(こんなにも温かい。身も、心も)





END 2011.7.4
 

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