short
□宵の明星
1ページ/3ページ
運命なんて信じる奴おらんやろ。
そう思てた。
「今日の練習長引いてしもたなぁ」
薄暗くなった夜道、俺は独り言を呟きながら家路へと向かってた。少し終わるのが遅くなっただけのいつものバンド練習帰り。
何も変わったことなんか起きるはずがない。
せやけど、歩いてた俺の脚は思いがけなく止まった。
人が近付くことなんか殆ど無い寺の前に、一人の女の子が立っとったから。
月明かりに照らされた横顔に目を奪われてしまう。
「……」
不意にこちらを向いたその子。俺の存在に気付いたみたいや。ハッと驚いた顔をしてたが、すぐに微笑んで近寄ってきた。
「こんばんは」
「え、あ…こんばんは」
突然話し掛けられたことにも驚いたが、もっと驚いたのは聞き慣れない発音だった。
「今日も星がとっても綺麗」
夜空を見上げてうっとりと話す彼女。やっぱりその音は俺が話す音とは違っていた。
「お前、京都の人間や…無いんか?」
気になった俺はぼそりと呟くように尋ねた。
俺よりも背の低い彼女は、空を見上げるよりは低く、こちらを見上げてはにかんだ。
「そうなの。私昨日ね東京から越してきたんだ」
頭に手を当てて「やっぱり分かっちゃうんだね」って舌を出してるその姿が、俺の胸の奥のなんかを、ぎゅって掴んだ。息苦しい。
「貴方は京都の人?」
「ああ…」
「お名前は?」
「志摩…金造」
俺が名前を発した途端、彼女の目が見開かれた。とても…驚いてるみたいやった。
でもそれもすぐに戻って、自分も自己紹介をはじめた。
「私は、如風雛」
「雛…」
「うん。
ねぇ…よかったら、京都の案内してもらえないかな」
-