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□バニラエッセンス
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【バニラエッセンス】



クッキーに少量加えると仄かに甘いバニラの薫りがして美味である。






「ってお菓子の本に載ってたんだけど」

「ああ、そうかい。で?」

「で?」

「これは何だって聞いてんだよ!」

燐が苦い顔をして指差した先にあるのは、真っ黒い、物体。


「何って、クッキーにしか見えないよ。燐バカ?」

「バカはお前だ、雛。どうやったらこんな悲惨な産物が出来上がんだよ!」

「最初から最後まで全力で頑張ったよ」

呆れたようにため息を吐き出した燐は、私にそっぽを向くように座り直した。


「食べてくれないの?」

「なんのことだろーなー」

耳を塞がれて頭にきた私は、燐の居る方に寄って行き後ろから押し倒した。


「うげっ!ナニしやがんだ!」

「人が一生懸命作ったんだからもう少し優しさを持ちなさい」

「うぐぁぁっ」

跨がった腰の上でヒップドロップを食らわすと燐から呻き声が上がった。





「食べて?」

ヒップドロップが効いたのかグラグラする燐を無理矢理起こして、ニッコリ笑顔で尋ねた。燐は引き攣った笑顔で「もちろん」と返した。勝った。


「でもこれさぁ…腹壊さねーか?」

「本に書いてある通りに作ったんだからもし身体に不調が表れたらその時は出版社を訴えたらいいんじゃない?」

私を見つめて苦笑いを浮かべる燐。


「…いただきまーす…」

「召し上がれ」


恐る恐る手を伸ばし、燐は黒い塊を口に入れた。もぐもぐと一点を見つめて口を動かしている。食べ方が小動物みたいで可愛かった。

動きが停止した。


「なに?」

「えっと…美味くない」

目を逸らしてそんなこと言うもんだから。

私は燐の頭を撫でながら笑顔で呟いた。


「そりゃそうだ」



どう見たって美味しくないって分かってるのに、わざわざ感想を言ってくれた、ただそれだけで胸が温かくなる。食べるの強要したのに気まで遣ってくれて、本当にどこまでいい子なんだか。


「今度は俺が作ってくっから…」

顔をほんのり赤らめた燐は下を向いてぼそっと呟く。


「嫌みですか」

「違ぇよ!」

私がからかうとムキになって叫ぶ燐。

それが堪らなく可愛くて。
肩を掴んで不意打ちでキスをしたら、燐は真っ赤になって飛びのいた。


「なななっ」

「ふふふん、燐の唇ゲットー」


あたふたする燐の前でわざと自分の唇を舐めてみる。


「あれ…?


バニラの匂いしてるんじゃない?」


二人顔を見合わせる。


嬉しくなった私は燐の手をギュと握って、笑顔を向けた。

燐は赤く染まったままの頬を緩ませて「よかったな」と返す。

その照れたような、困ったような顔が見たいから、


今日も私は燐を振り回す。

可愛いね、大好きだよ。



(明日もよろしく、燐)




END 2011.6.11
 

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