ショート

□あるものねだり
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この恋が叶うことのない、無い物ねだりなんて誰が決めたんじゃろうか


俺に少しでも可能性があるのなら、それはきっと
あるものねだり



「おい蓮二!!」

愛しのあの子が叫ぶ

「なんだ、弦一郎」

呼ばれたその子が答える


この二人が恋仲となったのは1ヶ月前

誰よりも愛していた真田が他の奴ののものとなるのは、どんなことよりも辛かった

もしもこの世に神様なんてものがいたら、俺は今すぐにそいつを殺しに行くじゃろう

そこで俺は、ある作戦を実行することにした


俺が柳に化けて真田を騙す

ほんの悪ふざけだし真田と少しでも話したかったからでもある


放課後になり、俺は真田のもとへと急ぐ

委員会があったのか彼は教室にいた


「弦一郎」

振り向いた彼の瞳はかすかに潤み、まつ毛を水滴が縁取っていた

「あぁ……なんの用だ……?」

涙で濡れた瞳に夕日が当たって美しかった

「どうして泣いとるんじゃ?」

その美しさに気をとられ、つい口癖が出てしまった

しかし真田は気にする様子もなくこちらへと近づいてきた

「仁王……」

「なんじゃ?」


俺は柳のカツラを取ろうとしながら答えた

「接吻をしてもらえないだろうか?」

「は……?」


呆気にとられる俺に構わず、彼は続けた

「今さっき俺は蓮二に別れを告げられた。」

一瞬理解できなかった

「偽物の……お前のペテンでもいいから俺を騙してくれないか…?」


俺は軽く笑って

「ええよ」

と返事をした後、真田に口付けた


こんな形でも手に入ったのだから嬉しいはずなのに


夕日に照らされた俺の目からはなぜか涙が止まらなかった




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