ショート

□つり橋効果
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夏休み、ただ1日だけ部活のない日。

幸村くんの誘いでレギュラー全員で海へ行く予定だったが、その予定は銀色のしっぽを生やしたコート上のペテン師という名の馬鹿仁王によって潰された。俺、丸井ブン太は現在、やつのボロいチャリによって誘拐されている。どうしよ。丸井くん可愛いから処女奪われちゃうかも!助けて!

「ブンちゃん、全部声に出とるけど」
「おっ、まじでか」
「てかブンちゃん、童貞ちゃうじゃろ」
「非童貞、処女」
「頭大丈夫ですかー」
「標準語になんな。キモい」
「ひどいっ」

ガムの味が薄くなってきた。ママチャリの後ろは尻が痛い。痔になったら確実仁王のせいだ。

「暑かー、溶けてしまうぜよ」
「ばーか、溶けるかよ」

でも色の白い仁王が言うと、本当に溶けてしまいそうで怖い。そういえばテレビでも、夏一番の猛暑日とかなんとか言ってたような気がする。

「そういえばお前、幸村くんの誘いはどうしたんだよい」
「断った」
「何て」
「女の子の日」
「死ね」

ウインクをしながらそう言った仁王は、明日幸村くんに殺されるだろう。

「あついー。海行こーにおー、涼しいとこー」
「そんなこと言うても…」

するとキキッと音をたてて自転車が止まった。

「ブンちゃん」
「なに」
「涼しゅうなりたい言うたよな」

仁王がニッと口角を上げた。バッと仁王の肩から前を見ると、そこには坂があった。

「ちょっ、仁王!」
「しっかり掴まっとき」

言い返す暇もなく、俺は仁王の腰にギュッと掴まっていた。

仁王が地面を蹴った。

ギャリギャリギャリギャリ

ひたすらボロいチャリのチェーンが擦れる音。

顔は仁王の背中にうずめていたけど、それ以外の場所には風がビュウビュウ当たっているのが分かる。涼しいはずなのに、なぜか顔ばかりがあつい。胸の音がうるさい。怖くなんか、ないのに。

ズシャーと音を立てて自転車が止まった。

「どうじゃった」
「におー君かっこいー」
「おっ、やったぜよ」
「なわけあるか」
「ピヨーー!」

仁王のしっぽを引っ張ってやった。

(何て言いながらも、仁王がちょっとかっこよく見えたなんて絶対言えない)

つり橋効果


「どうした、幸村」
「いやあ、ブン太とカス仁王の声が聞こえたんだけど」
「おーい!幸村くーん!」

(本当に来た!!!!)

「とりあえず仁王は血祭りにあげないとね」




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