ショート
□つり橋効果
1ページ/1ページ
夏休み、ただ1日だけ部活のない日。
幸村くんの誘いでレギュラー全員で海へ行く予定だったが、その予定は銀色のしっぽを生やしたコート上のペテン師という名の馬鹿仁王によって潰された。俺、丸井ブン太は現在、やつのボロいチャリによって誘拐されている。どうしよ。丸井くん可愛いから処女奪われちゃうかも!助けて!
「ブンちゃん、全部声に出とるけど」
「おっ、まじでか」
「てかブンちゃん、童貞ちゃうじゃろ」
「非童貞、処女」
「頭大丈夫ですかー」
「標準語になんな。キモい」
「ひどいっ」
ガムの味が薄くなってきた。ママチャリの後ろは尻が痛い。痔になったら確実仁王のせいだ。
「暑かー、溶けてしまうぜよ」
「ばーか、溶けるかよ」
でも色の白い仁王が言うと、本当に溶けてしまいそうで怖い。そういえばテレビでも、夏一番の猛暑日とかなんとか言ってたような気がする。
「そういえばお前、幸村くんの誘いはどうしたんだよい」
「断った」
「何て」
「女の子の日」
「死ね」
ウインクをしながらそう言った仁王は、明日幸村くんに殺されるだろう。
「あついー。海行こーにおー、涼しいとこー」
「そんなこと言うても…」
するとキキッと音をたてて自転車が止まった。
「ブンちゃん」
「なに」
「涼しゅうなりたい言うたよな」
仁王がニッと口角を上げた。バッと仁王の肩から前を見ると、そこには坂があった。
「ちょっ、仁王!」
「しっかり掴まっとき」
言い返す暇もなく、俺は仁王の腰にギュッと掴まっていた。
仁王が地面を蹴った。
ギャリギャリギャリギャリ
ひたすらボロいチャリのチェーンが擦れる音。
顔は仁王の背中にうずめていたけど、それ以外の場所には風がビュウビュウ当たっているのが分かる。涼しいはずなのに、なぜか顔ばかりがあつい。胸の音がうるさい。怖くなんか、ないのに。
ズシャーと音を立てて自転車が止まった。
「どうじゃった」
「におー君かっこいー」
「おっ、やったぜよ」
「なわけあるか」
「ピヨーー!」
仁王のしっぽを引っ張ってやった。
(何て言いながらも、仁王がちょっとかっこよく見えたなんて絶対言えない)
つり橋効果
「どうした、幸村」
「いやあ、ブン太とカス仁王の声が聞こえたんだけど」
「おーい!幸村くーん!」
(本当に来た!!!!)
「とりあえず仁王は血祭りにあげないとね」