ショート
□時雨心地
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『弦一郎が幸村と付き合い始めた』
そんな噂を知ったのは今日だった
以前から幸村の弦一郎へ対するアプローチは凄く、鈍感な弦一郎でさえもその好意に気付く位だった
そしてとうとう付き合い始めたらしい
俺としては大切な親友の恋を応援してやりたいと思うのだが、何故か変なモヤモヤとした気持ちで朝から避けてしまっていた
その日、部が終わり俺と弦一郎は部室で着替えていた
弦一郎がユニフォームを脱いだ瞬間、その首筋や身体中に赤い跡があるのを俺は見逃さなかった
「弦一郎」
「何だ」
「幸村に、愛されたのだな」
彼の体を見つめながらそう言うと、彼は小さい声で「たわけが」と言った
「たわけはどちらの方だ」
シャツの前がはだけたままの弦一郎を押し倒し、そう言った
互いに息が掛かる距離
赤い跡など
上から塗り替えてやりたい
しかし彼は透き通るように綺麗な瞳でこちらを見る
この時になってやっと俺が恋をしていることに気付いた
「すまない。」と言うと、弦一郎は納得したとばかりに「こちらこそすまない。見苦しいものを見せた」とかえした
「俺は部誌を書くので残るぞ」
「ああ」と返事をし、そのあと振り替えって
「幸村と幸せにな」
と言って部室を後にした
時雨心地
(時雨の降ろうとする空模様。転じて、涙が出そうになる気持ちのこと)