青の祓魔師

□オフリート
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「「何だ、こりゃ」

 燐は自分のベッドを見下ろして呆れ返った。
 雪男が祓魔師の制服のまま大の字で寝ている。
 靴も履いたままで、珍しく高いびきだ。
 顔を近づけるまでもなく、キツイ臭いが鼻を突いた。

(うっ、酒臭ぇ!)

 雪男がこんな醜態を晒すなど滅多にない。
 お堅く未成年の雪男がいくら色んな事に疲れても酒に逃げる訳がなかった。
 犯人はシュラだろう。
 いたずら好きの彼女の事だ。
 溜め込みがちな雪男をストレス発散させると称して、歯止めが利かなくなったに違いない。
 生真面目な雪男は格好の玩具だから。

(…ったくよぉ。やり過ぎだぜ、あの女〜)

 ベッドが泥だらけだ。燐は何とかブーツを脱がせたが、コートまでは無理だった。
 雪男は完全に出来上がっていて、ピクリとも動かない。

(未成年にここまで呑ますか、普通?)

 シュラは酒癖が悪かったし、雪男は絡まれるとムキになる所があった。
 明日は休日だからシュラも悪ふざけが過ぎたのだろう。
 だが、雪男がベッドを間違えるとは、余程前後不覚に酔ったらしい。
 見た目は結構強そうに見えるが、殆ど呑んだ事がない筈だ。
 燐の監視役となってからは洋酒入りの洋菓子も敬遠してるほどだから。

 背伸びばかりして張り詰めている弟は父の死以後、滅多に素で笑う事が減った気がする。
 シュラがお目付け役についてから、雪男と離れる事が増えた。
 雪男は学生と教員の二足の草鞋だし、正式な祓魔師でもある。
 任務で出向する事も多くなった。
 人手不足もあるのだが、うるさ型の雪男を遠ざけたいシュラの思惑も働いているのだろう。

(せっかく久しぶりに逢えたってのによぉ)

 燐は雪男の傍らに腰を下ろした。
 部屋は同室だが、毎日薬学の授業がある訳ではない。
 雪男の帰宅が深夜に及ぶ事もある。
 その頃、燐は高いびきだ。
 そんな訳で弟の顔をじっくり見たのは久しぶりだった。

(そういや、雪男の寝顔を見たのっていつ以来だっけ?)

 弟が病弱だった頃は寝顔と泣き顔がディフォルトだった。
 だが、今は三時間睡眠だから、常に起きている印象がある。
 体を重ねる事を覚えたものの、同じベッドで朝を迎えるという甘い関係には至っていない。
 雪男は休日でも仕事で出かけるし、勉学や授業の準備も怠らない。
 燐は燐でシュラと特訓の日々だ。
 その合間を縫って、息せき切って愛し合う状況だった。
 普通の恋人同士なら、とっくに我慢出来ないか、尻すぼみになりそうだが、兄弟だからか、まだ険悪なムードはなっていない。
 お互い忙し過ぎるせいだろうか。

 でも、久しぶりに逢うと、ホッとすると同時にドッと身体中に切なさがこみ上げてきた。
 見慣れてる筈の雪男の顔も寝顔というだけでいつもと違って見える。
 妙に胸がザワザワして、鼓動がうるさい。

(何だ…俺…変だ)


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