青の祓魔師

□ベリーベリーストロベリー
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★(注意)これ書いた時点で、アニメ3話までと原作1巻までしか読んでいなかったので、色々勘違いしている部分がありますがご了承下さい。



「どうして雪男が祓魔師って教えてくれなかったんだよっ!」

 初めての授業が終った後、メフィストは燐をお茶に誘った。無論、燐は機嫌が悪い。
 十五年間、一緒に暮してきたのに知らないのは自分だけだった。
 出生の秘密すら。そして、こんなにも守られていた事も。

 幼い頃からキレやすかった。考えるより先に手が出てしまう。
 気がつけば惨憺たる有様だった。まるで常に体内に満タンのガソリンが積まれているようだ。
 確かにケンカの理由はあるのだが、ここまでする事もない。
 無関係な人や場所まで傷つけるつもりはなかったのだ。
 だから、怒りが霧散した後は胸が痛くて立ち尽くした。

 しかも暴力は彼を孤独にした。
 理由なく殴る子のように言われ、常に燐は一人ぼっちだった。
 孤児だから情緒不安定なのだ。
 そう言い訳しようにも、弟の雪男には当て嵌まらない。
 悪魔呼ばわりされるのも慣れた。
 それでも、グレなかったのは父や弟だけでなく、修道院の皆からも愛されていたからだろう。

「だって、どうせすぐ解る事じゃないですか」

 メフィストはいつも通り、飄々とした笑顔で燐の怒りを受け流した。

「それに雪男君が君に言わないのに、私が出しゃばるのもね。
 自分だけ蚊帳の外で面白くないですか?」
「…そんなんじゃねぇよ」

 燐は理事長のデスクに腰を下ろした。
 メフィストはいつも含んだ物言いをする。
 ふざけた装束にふさわしく皮肉屋なのだろうか。
 父・獅郎の友人らしいが今イチ、ピンと来ない。
 共通点が見当たらないのだ。
 でも、父が最後に彼を託した男である。
 父に知らない顔があるようにメフィストもピエロに見えるが、ただのピエロではない。

「ただ、家族なのに水臭ェと思っただけだ」
「成程」
メフィストは薫り高い紅茶を啜った。

「しかし、知らないからこそ、貴方はただの人間でいられた。
 無知は罪ですが、知らぬが仏という言葉もある。
 もし、知っていれば、貴方はどうしました?
 現実を笑い飛ばせますか?割り切れますか?

 いやいや、人間はいつもそう強くはいられない。
 自分が悪魔だからと逃げを打つ場合もあるでしょう。
 一度言い訳を始めれば、それに縋るようになる。その方が楽だからです。
 知らなかったからこそ、貴方は真実と真正面に向き合わざるを得なかった。
 貴方が祓魔師を選んだのは痛快の極みでしたね。
 貴方に肩入れしたのはちょっとした気まぐれでしたが、面白い事になりそうだ」

「もういいだろ」
 燐は苛立たしく遮った。『ヒマつぶし』『気まぐれ』。
 サタンもメフィストも同じ匂いのする事を言う。
 だが、燐が存在しているのも、この連中が望んだからだ。
 面白くないが、自分は余りにも無力だった。ならば、ひとまずこの男の言う通りにする他ない。

「あんたもやっぱり教師だな。説教大好きかよ」
「フフ、これも教師の特典です。大いに愉しまないとね」

 メフィストはクロテッドクリームと木苺ジャムをスコーンにたっぷり挟んだ。一口食する。うまい。

「それで、その後、弟さんとはいかがですか?」
 燐は振り返らなかった。

「別に。いつも通り。兄弟喧嘩はいつもだし、仲直りもいつの間にか。それが兄弟だろ?」
「フム。普通のありきたりなケンカならね」

 メフィストは燐にスコーンを薦めたが、燐は受け取らない。

「今回は些か理由が違う。貴方の出生と獅郎の死に纏わる事だ。
 はっきり雪男君に責められましたもんねぇ。
 表面上はいつも通りでも、何処かしこりがあるのでは?」
「ねぇよ」
「だったら、私に当たる事はないでしょう? このスコーンにもね」

 燐は初めて肩越しにメフィストへ振り返った。
 本当に単純でガラスのように透け透けの若君だ。メフィストはにっこり笑う。

「先に教えてもらえていたら、もっとうまく対応できた。
 兄らしく振舞えた。そう思ってるんでしょ?
 雪男君の『医者になりたい』という願いを真に受けて、疑問も挟まない。
 しかもいきなり教師として教壇に立たれ、うろたえるばかり。本当にあどけない程おかわいらしい」
「うるせー!」

 燐は真っ赤になって怒鳴った。
 メフィストは遠慮せず笑いながら、痛ましげに首を振ってみせる。

「貴方もそう簡単に兄の沽券を取り戻せるとは思っちゃないでしょ?」
「う…」

 燐は口ごもった。優秀な弟と落ちこぼれの兄。
 兄の沽券が輝いていたのは雪男が泣き虫で病弱でいじめられっ子だった頃までだ。
 気づけば弟は遥か彼方。
 雪男が新入生代表だった時、驚愕したと同時に誇らしく思ったが、現実はその甘酸っぱい喜びすら吹き飛ばした。
 弟に劣ってると思った事はないが、少し情けない。

「お気の毒で憐れなお兄ちゃんに、ちょっと加勢してあげましょう」

 メフィストは指をパチリと鳴らした。
 扉が開き、執事が大きな箱を持って現れる。


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