短編1
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「うわあ…、真っ白…」
「うん!名無しさん、すっごく綺麗よ!今までで一番ね!」
「ありがとう、姉さん」
純白のドレスに身を包んだ妹―永田名無しさん―はいつのも増して綺麗だった。
今日は妹の名無しさんと我がETUの背番号14番、MFの丹波聡さんとの結婚式。
最初は永田家そろって反対した。選手とGMが結婚だなんてマスコミのネタにしかならないし、サッカー選手だっていつまで続けられるか、いつ怪我をするかそんな不安定な職業故に「認めない」の一点張り。
そんな中、丹波さんがうちに押し掛けてきて、「娘さんは、俺の一生かけて必ず、今以上に幸せにします!で、俺も幸せになります!だから、娘さんを僕にください!」というありきたりなセリフを豪快に宣言して、見事父さんの心を動かし結婚に至ったのだ。
あのときの丹波さんは、試合以上に真剣だった、ように見えた。
「名無しさんも結婚かー…。まさか妹に先越されちゃうとは…」
「あら、姉さんだっていい人いるじゃない。達海監督とか」
「ばっ、馬鹿言わないで!あんな人、絶対お断り!」
達海さんは冗談抜きで勘弁してほしい。あんなにだらしのない人と一緒にいたら、いつか私の胃に穴が開くだろう。どっちかと言うと後藤さんのがまだマシ。でもマシなだけであって、決して後藤さんと結婚願望があるわけではない。
そんな時、ノックの音が聞こえ「どうぞ」と言う前に勝手にドアを開けられた。
「なんだよー、ずいぶん嫌われてんのなー俺」
「達海監督!許可があるまで勝手に入らないでください!」
「おー、名無しさん!すげー綺麗じゃん。昔はあんなにちっこかったお前が、まさかうちのチームの奴と結婚とはねー。世間は狭ぇわ」
「当り前でしょ!私の妹なんだから!っていうか、なんでわざわざ達海さんきたのよ?名無しさんの晴れ姿は、向こうでゆっくり見れるでしょ?」
「いやー、ちょっとなー」
突然現れたのは達海監督。
さすがに今日はあの試合に来て行く、いわゆる"戦闘服"ではなくて、ちゃんとしたスーツだ。ネクタイが歪んでるのは、彼が身にまとうものに無頓着だからだろう。
達海さんにこちらへ来た理由を問えば、どうやら名無しさんの晴れ姿を見に来たわけではないらしい
「なんかよー、丹波の奴がさ、お前に会いたいって駄々こね出してさ。連れてきた。じゃ、あとはお二人でごゆっくりー」
「えぇっ、達海さん、そんな急に!」
「ほらほら黙れって有里。お邪魔な二人は出てくぞー」
そう言われて、私はしぶしぶ名無しさんのいる部屋を後にするのだった。
「ねー、入ってもいーい?」
「あ、聡さん。どうぞ」
聡さんに部屋に入るのを勧めたが一向に入ってこない。部屋の入口へ向かい、ドアを開けようとすると「ごめん!やっぱちょっと待って!」と言う聡さんの制止の声がかかる。
「え?どうしたんですか?」
「いやー、あの、ね」
「はぁ・・・」
「その…、柄にもなく緊張しちゃってたりして」
「…じゃあ、少しそのままで良いので私の話、聞いてくれませんか?」
そのまま聡さんを部屋の外に立たせて、ぽつりぽつりと話しかけた。
「私ね、今、夢を見てるんじゃないかって思ってるんです。こんなにカッコよくて、素敵で、可愛くて、大好きな人と結婚できるんですから。たとえ、私のこの人生が、誰かに決められていたものだとしても、聡さんと一緒なら私はそれでも幸せなんです」
「名無しさんちゃん…」
漸くふんぎりがついたのか、聡さんは顔を少しだけ覗かせた。そして、私を見ると、あの大好きなひまわりのような笑顔になった。
「やっぱ、俺が思ってた通り、超綺麗。世界一、いや、宇宙一、ね」
「そう言う聡さんこそ、宇宙一カッコイイですよ」
「これからは、俺の人生かけて名無しさんちゃんを幸せにする。宇宙一の幸せ者にする!」
「違いますよ聡さん」
「?…ま、まさか、今更になって『やっぱり若い赤崎君とかの方がいいわー』とか言い出さないよね!?」
「ば、馬鹿言わないでくださいよ!私だけが幸せんになるんじゃなくて、聡さんも、この子も一緒に幸せになるんです」
そう言いながら、私はお腹をさすった
「…この子?」
「えぇ。この子。名前決めなきゃね、パパ?」
「…よっしゃぁぁああああ!!!!!」
それは与えられた美しいしあわせ
(俺はいま、たくさんたくさん幸せなんだ)
(君と、この子)
(大切なものが二つもできたから)