短編1

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もう駄目だ、と。
直感的にそう悟った。


足がやられた。昔からいつかはつぶれる足だとは思っていたけれど。
医者の手早い処置によって、日常生活に支障がでないレベルにまで回復はした。

したの、だが


(サッカーができない)
(ボールをける事が出来ない)
(フィールドを走りまわれない)


こうも長かった俺のサッカー人生は、意外にもあっけなく幕を閉じた。
どんだけフットボールの神様に嫌われてんのよ、俺。


「達海さん」

そんな時、病室に入ってくる人影。
想いを寄せてはいるが、今の惨めな自分を見せたくない。そう思って、狸寝入りを決め込んだ。

「…寝ちゃってるのか…。」


簡単に引っ掛かる。そんな、甘チャンなところも結構好きだぜ。なーんて、な。


彼女は持ってきたであろう花束(そんなもんより果物とかのが良かった、とかはあえて言わないでおく)を花瓶にさし、俺宛の手紙を病室に備え付けてある棚にそっとしまってから俺が眠るベッドの近くにある椅子に腰かけた。

「…辛い、ですよね」

あぁ、そうだよ。
すっげえ辛い。今からでもボール蹴りたいし、シュート決めたいし、グラウンド駆け回りたいし、あいつらと肩組んで馬鹿やりながらトレーニングとか、ランニングとか、サポーターの奴らと写真撮ったり、パッカ殴ったりとか。

今になって、凄く恋しい。


「辛いのは、達海さんなのに…っ。達海さんが、きっと、一番…、誰よりもサッカーを愛していたのに…!なんでっ、なんで達海さんが、こんな仕打ちを受けなきゃいけないの…!」


あーあ、泣くなよ。俺なんかのために。良い歳したおねーさんがさぁ。
そんな風に泣かれたらさ、俺まで泣けてきちゃうじゃんかよー。

「……っぅ…!」

「たつ、み…さん…?」







急にうめきだした彼。膝が痛むのだろうか?いや、うめいたのではなく嗚咽が漏れたのだった。
彼は孤独な選手として、日本から遠いちで、孤独に闘っていた。
味方なんか日本にいるはずはなかった。【裏切り者】の汚名を受けて飛び立っていったその背中は、今、私の前で小さく震えている。

「達海さん?…泣いているんですか」

「別に、泣いてなんか、ない」


私とは反対側を向いて、挙句、掛け布団をすっぽり、頭までかぶっているから達海さんの表情はわからない。
でも声の調子からして、涙ぐんでいることは、きっと事実。


「ありがと。もう、帰っていいよ」


彼の精いっぱいの強がり。
人一倍、孤独な環境に置かれた彼は、人一倍、人の温かさを求めているはずなのに。
それをこうやって突き放すのは、きっと自分の顔をみられたくないから。情けなくて弱い自分を見せたくないから。惨めな自分を見せたくないから。ねえ、そうでしょう?


「…分かりました。また、明日もきますね。おやすみなさい」


そう言って、病室から出た私は、一人廊下で泣き崩れるのだった。
(そんな弱い貴方を、私は知らないのに)



貴方にだけで良い。世界が優しくありますように。
(それであなたが笑ってくれればいい)

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