短編1
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そう言えば彼と想いを伝えあったのはいつだったか。今考えてみるとずっと昔だった気がする。愛を囁いても、囁かれてもいないし、身体を重ねてもいない。最近はお互いに取り扱ってる事件が忙しくてそれどころではなかったのだ。そんなことを頭の片隅で考えつつ、事件の資料を整理しながら私は冷えたコーヒーをすすった。
「名無しさん刑事、ここにおられたか」
「あら御剣検事。こんにちは。本日は何か御用ですか?」
「うム。この前の事件で少々気になることがあってね。前回の立てこもり事件の責任者は名無しさん刑事だったかな?」
「えぇ、そうですが。その事件の資料なら奥の部屋にあるので取ってきますね」
「あぁいや、本日はそのことも含め名無しさん刑事を食事に誘いに来たのだが。まだだろう?昼食」
そう言えばもうそんな時間か。今日は朝から何も食べてないから、ずいぶんとお腹が減っている。それでも鳴かなかった腹をほめちぎってやりたい。恥かかなくてすんだ。
そうだ、それなら、御剣検事には悪いけど狼刑事も誘ってみようか。大勢で食べた方がご飯っておいしいよね。
「あぁ、はい。それなら狼刑事もよんで…」
「あぁ、いや。私は…、その、君と二人で行きたいのだが……。どうだろう?」
なにか事件に関する重要な話でもあるのだろうか。そう思い私は了承の意を示した。
「何食べますか?あ、高いものは勘弁してくださいね。給料前で私ピンチなんですよ」
「いや、私が奢ろう。突然誘ってしまったからな」
御剣検事のお言葉に甘え、奢っていただくことに。そして連れてこられたのは、御剣検事行きつけという高級フレンチ。
いつもこんないいモン食べてるのかこのフリフ…ゲフン。この検事は。
「いやあ、すみません。ごちそうになっちゃって」
「いや、私が言いだしたことだ。気にしないでくれ」
すごい、一人前ウン万円の食事。凄く贅沢だ。
「あ、そういえば御剣検事、何かお話があったんじゃないですか?」
「いや、あったのだが…。先ほどから後ろからの殺気で気が散ってしまっていた」
そう言われ、後ろを見ると久しぶりに見た愛しいあの人の顔が。
「…行くといい」
「すいません!ごちそうさまでした!」
そう御剣刑事に言い、不機嫌な彼のもとへと向かった。
「いっ……」
自室に戻ると凄い勢いでソファーに投げられ、上から押さえつけられた。彼の眼は獲物の狙う狼のようで、背筋がゾクリとした。
「な、んですか!急に!」
「お前が、他の男とぶらぶら食事に言ってるからだぜ」
「いっ、良いじゃないですか!誘っていただいたんですよ。断ったら悪いじゃないですか」
「ほう。俺の誘いは断るのにってか」
「え?」
「携帯みてみろ」
そう言われ携帯をみるとディスプレイには【新着メール1件】の文字が。差出人はもちろん狼刑事で、内容は昼飯を一緒に済ますから検事局のロビーで待っていろ、とのことだった
「……えへへ」
「笑い事じゃねえだろ。覚悟、できてんだろうな?」
「え、ちょ、まっ……」
そうして私は、狼に捕らえられてしまうのだ
狼士曰く
(兎は、狼から逃げられねえんだぜ)