短編1
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「雨、降っちまったなあ」
名無しさんに声をかける。
今日はせっかくの七夕だというのに雨が降っている。こういうイベントが大好きな彼女は相当落ち込んでいるのかと思ったが、どうやら違うらしい。落ち込んでも、悲しんでも、怒ってもいないようだ。
「イベント好きなお前の事だから落ち込むと思ったが」
「うん、平気だよー」
彼女はいたって普通で、いつもと変わらずファッション雑誌を読んでいる。
あ、その服、俺超好み。ミニ丈の花柄ワンピース。フリルが所々あしらわれていて清楚なイメージの物。誕生日にでも買ってあげよう。ほら、服を買った人間が、その服を脱がす権利があるって言うしな。
何気なく彼女の方に目をやる。
心なしか、すこしうれしそうな顔をしている。
む、そんなに俺と出かけられないのがうれしいってのか。
「なー、」
「なあに?」
「なんか嬉しそうじゃねェか?お前」
「そっ、そんなことないってば!」
怪しい。なぜそこでどもった。なぜそこで顔を赤らめた。
まあでも、顔を赤らめたなら、出かけるのが嫌だったわけではないらしい。理由が気になる。こうなりゃ、実力行使しかねェだろ。
ベッドに寝っ転がってる彼女に跨り、枕もとに両腕をついて逃げられないようにする。そうすると、雑誌を読んでいた名無しさんはすぐに顔を赤くする。そこで、トドメに耳元で、いつになく吐息を含ませたエロイ声(自分でエロイって言うのもアレだが)で、
「なぁ…、なんでそんなにうれしそうなんだ?」
「…っ!」
これで彼女は簡単に落ちた。さすが俺。
だが、今回は名無しさんも意地になったらしく頑なに口を開こうとしない。
そういうことされると、男は余計にもえるんだよなあ。
「なぁ…」
「いっ、言わない!」
「いいのか?そんなこと言って」
「へ?」
「言わないと…」
「言わないと…?」
「今からお前を抱く」
「なっ!わわわ分かった!言う!言うからどいて!」
あっさり攻防戦が終わってしまった。別に言わなくてもいいのに。いや、言うようにさせたのは俺だけど。
彼女の上からどいた俺は、やはり名無しさんに触れていたいので、名無しさんを後ろから抱きしめ肩に顎を置く。
「あの…、今日七夕祭り行く予定だったでしょ?行くのはいいんだけど、エースってかっこいいから、みんなに、見られちゃうなあって…。エースは……た…なのに」
「ん?最後が聞こえねえなあ」
嘘。本当は最後まで全部聞こえてた。
だけど最愛の彼女からのその言葉は何度でも聞きたくて。意地悪でもう一度言わせる。
「エースは、私のなのにって、思って!」
「うれしい事、言ってくれんじゃねえか」
彼女を腕に閉じ込めたまま、ベッドへ倒れこむ。そしてそのまま上下逆転。これで、主導権は俺が握ったも同然。いや、いつも握ってるが。
「エース!私ちゃんと言ったじゃない」
「あんなこと言われた俺に、我慢しろってのか?そりゃ、ムリだな」
外は雨。雨が降ると空では天の川が氾濫してしまうらしい。
俺らも、お互いへの愛が部屋いっぱいに氾濫した。
天の川の氾濫
(このまま二人で)
(溺れようか)