短編1

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だから、愛した。
だから、哀した。



彼女は、俺を愛してくれた。彼女だけが俺のすべてだった。彼女だけが俺の太陽で月で王女で、神だった。
そんな彼女が、俺のもとからいなくなってしまった。


「(何処に行ったんだっつの…)」


不安でたまらなくなる。
俺の彼女はとてつもなく可愛い。三国一、いや世界一、いや宇宙一可愛いといっても過言ではない。本当に可愛くて愛らしいのだ。会う人間全員が彼女と顔を合わせると頬を染め、すれ違う人間全員が振り向いてまでも彼女を眼で追ってしまうような、そんな罪作りな彼女。俺ら孫呉の城にも「月も光を消し、花も恥じらう」と言われている二喬のお二方がいるが、そんなもんじゃない。


俺の父上が殺されたときだって、彼女は傍にいてくれた。俺をその優しくて愛らしい言動で慰めてくれた。彼女がいるから、今の俺がいるといってもおかしくはない。


そんな大事な彼女がいないのだ。俺にとっては地球が爆発することと同様、いやそれ以上のショックだった。彼女は城にいる時でも、戦場にいる時でも、飯の時でも(さすがに風呂にいるときは無理だったが、)いつも俺の傍にいてくれた。


「あら、凌統じゃない。どうしたのよ?」

彼女を探すため城内をうろついていると、孫呉の姫さんでもあり、武将の孫尚香様に声をかけられた。そういえば彼女も、結構美人だと言う話があった気がする。彼女には及ばないが。

「あぁ、姫さんか。ちょいと俺の最愛の彼女を探しててね。姫さん、知ってるかい?」

「え、凌統、あんた知らないの?」

「ん?何の事だい?」

姫さんに彼女のことを尋ねると、驚いた眼で見られた。なんだっつの。

「あの子、"埋伏の毒"だったのよ。蜀軍からのね」

どういうことだ。だって、彼女は昔から俺の傍にいてくれて、俺が想いを告げてくれた時には嬉しそうに頬を染めながら頷いてくれて戦場で助けてあげた時もかわいらしい声でお礼を言ってくれて、どんな時でもずっと一緒だったのに。

「ははっ…、姫さん。さすがに言っていい冗談と悪い冗談があるっつの」

「嘘じゃないわ。でも処刑時間の時、計ったように処刑場所に火矢が放たれて、あの子、逃げちゃったけど…」

「いい加減にしろっつの!」

怒鳴っちまった。仮にも一国の姫さんに。あーあ、俺、明日斬首かもなー。ははっ、笑えるっつの。

「姫さん、あんたが彼女をどう思おうが勝手だ。だけど、仮にあんたが、いや、あんたらが彼女を殺すってんなら、俺があんたらを殺すよ」

そう言い残して、姫さんと別れた。

「ちょっと、凌統!何処へ行くのよ!」

「決まってるだろ」

最愛のあの子をを迎えに、だっつの。






何時間馬を走らせただろうか。いや、何日?もうそんなことも分からないくらい、俺は夢中だった。彼女を取り返す。その思いだけで蜀まで来た。正直、無駄な争いはしたくないからね。とりあえずお偉いさんと話すか。
…そこに運良く、蜀の有名な武将さんもいることだし。

「アンタ…、趙子龍さんだっけか?」

「お主は…、孫呉の凌公績殿か?蜀に何用か」

「おっと、戦いに来たわけじゃないっつの。得物をしまってもらえるかい?」

俺に戦闘意欲が無い事がわかるとあっさりしまってくれた。案外、話の分かる武将さんじゃないか。

「あんたの軍に、この間まで呉に来てた子いただろ」

「…彼女がどうした」

「まどろっこしい話は嫌いなんでね。単刀直入に言わせてもらいけど、あの子、返してもらえるかい?」

「彼女を殺す気か」

「馬鹿言わないでほしいね。彼女を殺すなら、俺も一緒に死ぬ、ってね」

「では、何の為に?返答次第では、お主を斬る」

「決まってるだろ?彼女を愛してるからだっつの」


どうして俺と彼女の中を邪魔しようとするかねえ。俺らが羨ましいのは分かるけど、そんなに躍起になって邪魔する男は嫌われるよ。

「すまないね、趙雲さん」





「…凌、公績…!」

「!!…まったく、俺の可愛い子猫ちゃんはこんなところにいたのか…。駄目だろ?勝手に逃げちゃ」

趙雲殿を赤く染め上げた後、突然現れたあの子。騒ぎを聞きつけてきたらしい。会いたかった彼女にやっと会えた。さすがは俺。運がいい。いや、運命だったのかもな。運命なんて普段はこれっぽっちも信じちゃいないのに。

「なんで…、なんであんたがここに…!」

「決まってんだろ?あんたを迎えに来たんだっつの。さて、俺と帰ろうか?」

「う、そだ…、嘘だ嘘だ嘘だ!!!」





信じてもらえないかもしれないけど君が心配でたまらなくて、

(彼女と対面した時の絶望した顔と言ったら)
(…絶望した顔と言ったら)


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