長編

□王様何様携帯様
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今日は午前中から大事な会議。その後は取引先に顔を出してっから、友達とお昼食べに行って、またまた違う会社と取引のことで会議して、その後は新人の歓迎会で居酒屋に行って二次会でカラオケに行って…


「忙しいいいいいいい!!!!!」

なんで今日の私、こんなに忙しいの?
時間の使い方がヘタな訳じゃない(多分)。上司がすぐ会議をしたがるからに決まってる!
ああ、でもこんな調子じゃ友達とお昼ご飯は無理かも…。
しょうがない…。楽しみだったけど、また今度にしてもらおう。
そう思った私はかばんの中にある携帯に手を伸ばした。

・・・・が。

「あ…、れ?」

ないないない!何処を探してもない!
あのオレンジ(ちょっと選択ミスな感じの派手な色)の携帯が無い!
やばい!どうしよう!



私がこんなにもあせっているのには、理由がある。
友達と連絡が取れないから?
いや、それは違う。彼女の電話番号は覚えているからだ。あとで公衆電話からかける。
私が恐れているのは…、そう。
あのふてぶてしい携帯様が、家で怖い笑みを浮かべながらマジギレしていることだ。
家に帰ったら、何されるんだろう…!

その事が恐ろしくて、私は仕事に身が入らないのだった。






「…た、ただいまー…」

二次会も無事に終わり、家に着いたのは12時過ぎ。つまり、私は12時間以上携帯に触れていなかったことになる。
電気がついているのかと思いきや、部屋は真っ暗。急いで寝室に向かい、寝室の電気をつける。

……携帯様はベッドの上にお座りになり、片方立てたひざの上に肘を置いて頬杖をつきながら待っていた。
いつもの怖い笑みを浮かべて。


「た、だいま…」

「おかえり。遅かったじゃん。何だっけ、今日は。…あ、たしか新人君の歓迎会、だとか言ってたよね」

「あ、はい…。おっしゃる通りでございます…」


いつもの調子で話しかけてくる彼が、余計に怖い。そりゃあ怒鳴られるのは怖いけれど、怒ってるってはっきり分かってるから、そっちのが少しはマシなのだが…。


「俺今日さあ、一日中充電されててさ。ぶっちゃけ腹いっぱいなわけ。少し苦しいし、今日動いてないし、日の光も浴びてないし」

「(携帯に日光は必要ないのでは…)」

「何か言った?」

「いや…、なんでも…」

「でさ、体力もスッゲーあまってんの。暇で暇でやることもなかったし、コードがあるからテレビとか見に行けなかったし」

「あの…、ほんと、ごめん、なさい…」

「いや、謝んなくていいや。まあアンタの怯えた顔も超ウケるんだけどさ」

「(なんか凄く悪い予感しかしない…!)」

「お詫びとして、俺と同じ苦しみを味わえよ」


え、という言葉を発する前に、私はベッドに押し倒されて、携帯につながっていた充電器で腕を拘束されてしまう。


「え、何。どういうことですか持田さん?」

「ほら。俺もコードの所為で動けなかったわけだし。ま、腹は俺がいっぱいにしてやるよ。夜は長いんだし、さ」



王様何様携帯様
(なー、腹減った。飯作れ)
((…!こいつ…!))
(次の日には、こいつの目覚ましで起こされるのだった)


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