番外編

□花火大会。
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『花火大会』



 万事屋の三人と妙ちゃんとで花火大会に来たけれど、見物客が多すぎて見事にはぐれてしまった。
 歩くのもままならないくらいの人ごみで、みんなを見つけるのは無理だろうと諦めかけた時だった。

「困ったなぁ……」

「あ、あれ? 茜ちゃん!」

 呼ばれて振り返ると、そこには近藤さんがいた。
 見知った顔に、不安だった気持ちが和らぐ。
 確か、今日も妙ちゃんのストーキングに励んでたはずじゃ……。

「あ、近藤さんも見失ったんですね(妙ちゃんを)」

「あー、うん、まあ……」

 近藤さん、なんか歯切れ悪いような……?
 曖昧な返答に私が不思議そうな顔をしていると、近藤さんは恥ずかしそうに頭をかきながら言った。

「あの、いつのまにか茜ちゃんがいないのに気付いて、はぐれて困ってるんじゃないかと思って……」

 それって――

「私を探しに来てくれたんですか?」

「う、うん。でも、銀時も探してるだろうに、見つけたのが俺でごめんね……」

「なんで謝るんですか」

「だって、茜ちゃんはアイツの事が――」

「私は、近藤さんに見つけてもらえて嬉しかったのに」

「茜ちゃん……」

 近藤さんは優しいから、ただ心配して探してくれただけなんだろうけど。
 妙ちゃんを追いかけずに、私を探してくれたことが、とにかく嬉しくて。
 今だけ……近藤さんの優しさに甘えていいかな……?
 近藤さんのこと、独り占めにしてもいいかな……?

「近藤さん、手を出して下さい」

「手? はい」

 差し出された近藤さんの大きな手に、ほんの少しだけ迷って、自分の手を重ねた。
 あたたかくて大きくて節くれだったその手を握り締めた。

「茜ちゃん?」

「もうはぐれないように、です」

「……うん」

 近藤さんも私の手を握り返してくれた。

 花火が上がる。
 花火に照らされた近藤さんの顔が、妙ちゃんを見るときのような優しい顔をしているように見えた。
 妙ちゃんが羨ましく思えた、私には向けられないあの顔だ。
 気のせいだったかもしれないけど、今だけは近藤さんのその顔が私に向けられてるって、大切に思われてるって思ってもいいかな……?

 今だけでいいから……。

 自分でそう思ったのに、少しだけ胸が痛くなったのを誤魔化すように、近藤さんの手をギュッと握った。

 二人、手をつないで歩く。
 誰にも秘密の、私だけの大切な夏の思い出。





おわり。

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