番外編

□三月:ホワイトデー。
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『土方の場合』


「小野、14日って時間あるか」

 副長室にお茶を持ってきた小野にそう問うと、笑っているような困っているような、何とも言えない顔をした。

「なんだ、その顔」

「もとからこんな顔ですよー」

 ぷくっとふくれ面も、なかなか可愛いと思う。
 コイツを見ていると、いつも眉間にシワを寄せている自分の表情がやわらかくなる気がする。
 そのくらいには、コイツに対して重症の自覚はある。

「14日って何かあるんですか?」

「何かって……アレだよ」

「アレ? って何ですか?」

「いやまあ、アレはアレだ」

 コイツ、相当ニブイとは思ってたけど、本気でホワイトデーのこと忘れてやがる。
 首を傾げる小野に、「とにかく」と続ける。

「話したいことがあるから、14日は時間作ってくれねーか?」

「あ。じゃあ、うちでご飯食べません?」

「へ……」

 くわえていた煙草を落としそうになる。
 小野の家で、二人きりでメシを食う? それはアレか、誘われているということか。

 ニコニコと暢気な笑顔で俺の返事を待つ小野。
 この顔は……本
気で言ってる……ワケないか……。

「あ、あー。まあ、いいんじゃねえの? お前がそれでいいなら」

「いいですよ」

 とびっきりの笑顔で嬉しそうに言われたら。
 これは期待してもいいんじゃないか?

「じゃ、じゃあ、仕事が終わったら行く」

「はい、お待ちしてます」

 総悟にだけは、今この顔を見られるわけにはいかないと、思った。










『近藤の場合』


「あ、茜ちゃん。ホワイトデーのお返しなんだけど、何か欲しいものある?」

 いつものごとく、お妙さんからの愛の鞭を受けて倒れていた俺を、これまたいつものごとく、拾って手当てしてくれる茜ちゃんにそう質問した。

「も、もー。ダメですよ、近藤さん。そんなこと渡す相手に聞いちゃ」

「え、あ、そっか。すまん」

 俺をたしなめつつも、なぜだか嬉しそうな茜ちゃん。
 そういう素直な感情を隠しきれてないところが、正直可愛いと思う。

「私のことはいいから、妙ちゃんへのお返しはちゃんと用意したんですか?」

「それはもちろん、ちゃんと用意したけど。茜ちゃんにも何かお返ししたいんだ」
「うーん、そうだなぁ……」

 最後の絆創膏を貼り終えて、茜ちゃんは遠慮がちに言った。

「あの……髪飾り」

「髪飾り?」

 おずおずとそう言った彼女に聞き返すと。

「いえ、あの、やっぱりいいですっ。あ、アレがいいですっ! 五円チョコ!」

「え、五円チョコ? それだけ?」

「はい、それで十分です」

 急に遠慮した茜ちゃんは、「五円チョコ好きなんです」とさらに重ねた。

 手当てをしてくれた礼を言って、彼女の家を後にする。
 さっき茜ちゃんはああ言ってたけど、やっぱりお返しはちゃんとしたい。そんなに値の張らないものなら受け取ってくれるだろうか。

 彼女に一等似合う髪飾りを探そう。
 おまけの五円チョコも一緒に。




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