番外編
□二月:バレンタインデー。
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生クリームを冷蔵庫に並べ終わると、大量のチョコレートはとりあえず台所に置いておいた。
お茶を持って居間に戻ると、近藤さんはすでに傷口の手当てを終えていた(本当に手慣れている)。
「はい、どうぞ」
「おお、ありがとう。
……ところで、あの大量のチョコレートはもしかしてバレンタイン用?」
「はい、そうですよ。
万事屋や屯所の皆さんに渡すように作るつもりです」
「ん? じゃあもしかして、みんな義理?」
「? はい、そうですけど」
「いやだって、茜ちゃんは万事屋のことが……」
何やらゴニョゴニョ言う近藤さんの真意が分からず、ちょっと考える。
屯所のみんなにチョコレートあげる→つまり近藤さんにも渡すことに→いや、近藤さんには心に決めた妙ちゃんという女性が……。
……ということは。
近藤さんは妙ちゃんからのチョコレートが欲しいんであって、私のチョコレートは例え義理でも貰ったら困る……のか。
近藤さん真面目だし、一途だし。
近藤さんに迷惑は掛けたくないけど……でも、なんか胸がモヤモヤするのはなんでだろ……。
とりあえず、近藤さんに受け取ってもらえるかは分からないけ
ど、作るだけ作ろう。
「さて、そういうわけなので、私は今からチョコレート作ります。近藤さんはまだ帰らなくていいんですか?」
「え……ああ、うん……。帰ります……」
玄関まで見送る。帰り際、何やら考え込んでいた近藤さんが振り返って言った。
「あの、茜ちゃん。チョコレートなんだけど、オレのは無理して作らなくていいから」
「え……どうしてですか?」
「いや、あの……。
バレンタインって大切な人に気持ちを伝える日なんだし。義理チョコとか無理して作らなくても、茜ちゃんが一番大切な人に心を込めて作ってあげたらいいと思う。
……じゃ、じゃあまた!」
「あ……はい、また」
近藤さんが帰った後、玄関の扉が閉まると同時に私はその場に座り込んだ。
「今のって……例え義理でも、私のなんかいらないってことか……」
近藤さんは優しいから「無理して作らなくていい」と言ったけど、なんだか私自身を拒絶されたように感じて、すごくすごく悲しくなってしまった。
私にとって、思いを伝えたい大切な人って誰なんだろう……。
切ないような苦しいような、なんだかよく分からない気持ちで胸が痛
くなってしまった。
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